本を出版するなら、最終目標はやはり「ロングセラーになること」だと言われます。
よく似た言葉に「ベストセラー」がありますが、ベストセラーとロングセラーの違いや、「何年売れればロングセラーなのか?」など肝心な部分があいまいなものが多いので、現場の実態から明確に整理しました。
この記事を読めば、「ロングセラーとベストセラーの違い」はもちろん、
一番気になる「ロングセラーになる方法」と、「ロングセラーのその先」の世界についても知っていただけるでしょう。
目次
動画:ロングセラーの条件や、ロングセラーになる方法
本記事の要約を8分未満の動画でまとめてあります。
ロングセラーの条件や、ロングセラーになる方法を動画で知りたい方は下記をご覧ください。
ロングセラー本とは「長期間売れ続けている本」のこと
三省堂の大辞林(第3版)によれば
〔和 long+seller〕長期間にわたって売れ行きのよい商品。
とされています。また「特に書籍のことを指す」とする辞書もあります。
しかし「長期間」というのは何年程度のことなのか?についての厳密な定義はありません。
では、今の出版業界においては、何年売れ続ければロングセラーになるのでしょうか。
実際のところ、ロングセラーかどうかを判断する場合
- 今、売れている
- 発売が1年以上前である
この2つを満たせば「ロングセラー」と呼ばれることが多いです。
つまり「今、売れてる本のうち、1年以上前から売れているもの」=ロングセラーです。
重要なのはこの「今、売れている」の部分です。
たとえば
「10年前に発売されて、5年前まで売れていたけれど、徐々に売れなくなり、今では絶版。」
これではロングセラーとは言えません。あえて呼ぶなら「ロングセラーだった本」ですね。
(本が10万部以上売れた場合は、「ロングセラーだった本」より「ベストセラー」と呼ぶ方が聞こえがいいです)
ベストセラーとの違いは「売れた数」か「年数」か
ベストセラーとロングセラーの違いは何か?というと、ベストセラーは売れた冊数、ロングセラーは売れた年数で認定される点です。
つまり、
- ベストセラー⇒「売れた数」で認定される
- ロングセラー⇒「売れた年数」で認定される
ということです。
ベストセラーは売れた部数(正確には刷られた部数)でカウントされ、「10万部からベストセラー」とされることが多いです。
※ベストセラーについては以下の記事で詳しく解説しています。
ベストセラーは何万部から?意味と基準、調べ方【日本のトップ10も紹介】
かたやロングセラーは「売れた年数」で認定されます。
どんどん新刊が発売され、商品の入れ替わりも激しい出版業界では、1年以上売れ続ける本が極端に少ないのです。
よって「1年以上」売れればもうロングセラーと呼べるでしょう。
しかし、児童書だけは少し勝手が違います。
児童書は『はらべこあおむし』や『ぐりとぐら』のような、親世代・祖父母世代が子供のころに読んでいた本が、今でも売れ筋に入っています。
「ロングセラーがベストセラー」と呼ばれる児童書ジャンルにおいては、1年どころか10年。
あるいは親から子へ、子から孫へ、と世代を越えて売れ続けないと「ロングセラー」とは呼べない…のかもしれません。
ロングセラーになる本の条件
ロングセラーになるにはどんな条件をクリアすればよいのでしょうか。
ベストセラーと違い、短期間でたくさん売れる必要はありません。
すでに書いたように「長く売れ続けること」が大事です。
そして長く売れ続けるためには以下の条件が必要になります。
- 目的買いされる
- 普遍性がある
この2つです。順番に整理して解説します。
目的買いされる本がロングセラー
ロングセラーとは書店の売り場では、棚差しでもしっかり回転する本のことです。
なぜなら、ロングセラーは「その本を買うために本屋さんに足を運ぶ」という「目的買い」されるものだからです。
いわゆるベストセラーの場合は、たまたま目についた人がなんとなく買う、普段は本を読まない人が買うもので、「ついで買い」とも呼ばれます。
よって売れ筋コーナーやエンド台と呼ばれる、よく目につく売り場でたくさん平積みして、目立たせます。
かたやロングセラーは、「目的買い」のため、棚差しにしておいてもしっかり売れていきます。
最近「目的買い」した本はどんなものか、ご自分のことを振り返ってみてもらいたいのですが
- 友人に勧められた本
- 著名人が薦めていた本
- 面白かった本の「参考文献」に掲載されている本
などではないでしょうか。
どれも、人が「良い本だ」と思ったから薦められたり、参考文献になったりするものです。
つまり読者や業界の著名人、他の著者が「良質な本」だとして、勧めたり参考にするような「質の良い本」であることが大切です。
普遍性のある本がロングセラー
「長く売れ続ける」には、常に「今」売れている必要があります。
先ほども書きましたが、10年前に発売されて、その後5年間売れ続けたとしても、現在売れていなければもう「ロングセラー」ではなく「かつてのロングセラー」だからです。
しかし時代が変化してもなお、古さを感じない本は非常に少ないです。
事件性のあるもの、流行や最先端事例を紹介した本などは、書いた瞬間からどんどん古くなります。
例えば「就職氷河期」という言葉は今の就活市場を考えると古いと言わざるを得ないし、ipadやiphoneなどその当時の最新ガジェットも時代が経つと時代を感じさせます。
10年、20年経っても成立する、時代の試練に耐えうる普遍的なテーマを意識して書く必要があります。
それはつまり、人間関係であったり、良く生きること、健康、美容、お金のようなテーマです。
普遍性のあるテーマは、案外10年前、20年前のベストセラーを研究することで見えてきます。
「人間関係」も、「良く生きること」も、10年前にすでにベストセラーが存在し、今でもベストセラーが出ているテーマです。
きっとさらに10年後も同じテーマのベストセラーが出ているでしょう。
「自分の名前の棚」がある著者になる
ロングセラーの条件ではないですが、「ロングセラーになりやすい条件」があります。
それは「自分の名前の棚」がある著者になることです。
面白い!と思った本に出合えたら「他にどんな本を書いているのだろう?」と気になって、著者の過去作を調べたことはありませんか?
そんな時、書店にその著者の本がたくさん並んでいたり、その著者だけでコーナーが一つ出来るくらいあったりすると、非常に買いやすいですね。
目的買いされる本を書く⇒棚に残っても売れる⇒さらに目的買いされる本を書く⇒棚に自分のコーナーができる⇒指名買いされるようになる⇒新刊を毎年出し続けることができる
こういうライフサイクルを構築できると、長く著者として活躍でき、ファンを増やし続けることができます。
「出版の本当の成功はロングセラー著者になることだ」と言われる理由です。
これは「目的買い」から、さらに「指名買い」へと進化していくことです。
本自体がロングセラーになるだけでなく、自分の名前が定番になること。
これは究極の「ロングセラーの作り方」かもしれません。
ハードルも一番高いですが、やはりここを目指したいですね。
ロングセラー本の代表作
最後にロングセラーをいくつかご紹介します。
しかし、世の中にはロングセラーと呼べる作品が本当にたくさんあるので、選定は難しいです…。
『聖書』などは最も有名なロングセラーと言えるでしょうし、児童書にはロングセラーばかりで挙げ始めれば本当にキリがありません。
というわけで本サイトの読者さんが執筆する可能性の高い、分野に絞ってロングセラーを選定紹介します。
(美容・健康系がない理由はまとめに後述)
自己啓発系ロングセラー
アイデア・クリエイティブ系ロングセラー
経営系ロングセラー
他にもピックアップしたいロングセラーはたくさんあるのですが・・・とりあえずということで!
まとめ
ロングセラーについて「長期間売れる商品」とすることが多いのですが、明確な年数がないため、出版においては「1年以上で、充分ロングセラーと呼べる」と現場の実情をお伝えしました。
しかしロングセラーとは「常に、今、売れている商品」でなければならず、現時点のロングセラーがさらに数年後もロングセラーとして生き残っているかを考えると、かなり難しいと言えます。
ビジネス書はそれでも比較的ロングセラーの存在するジャンルで、「美容」や「健康」に至ってはベストセラーはたくさんあるものの、10年続くロングセラーはひょっとしたらまだないのかもしれません。
ロングセラーは「目的買いされる本」であり、その最終形は「指名買いされる著者」になることでしょう。
そんなロングセラーをたくさん増やすことが、出版業界を上向かせるポイントだと思えてきました。