小籠包はレンゲにのせる前にだいたい破れて、肉汁全部でちゃうタイプの出版プロデューサー西浦です。まわりの『あー、あーあー・・・』っていう声がつらい。
小籠包が美味さと引き換えに、「破れやすく、かつ口の中ヤケドしがち」という制約を負っているように、本もまたいくつかの制約を負っています。
そのうちの一つが「売り場」に関する問題です。本の9割は、本屋さんやコンビニで売られているのですが(ネットのシェアはまだ全体の1割くらい)、本屋さんではジャンルごとに棚が分かれており、棚のない本は置く場所がありません。
「本」である以上どこの売り場に置くかを想定するのは必須条件で、そこが見えていないと戦う前に返品されることにもなりかねないのです。
目次
売り場で迷子になるような本は、戦う前に負けている。
以前、とある作家さんと出版社さんから「主婦向けに生活の知恵的な雑学書籍をつくる予定なのですが、マーケティングについてアドバイスが欲しい」とのご依頼があり、いくつかのアイデアを提案させていただいたことがあります。
当時、話を伺って、「企画」としては面白いのですが「本」としては微妙だなと思ってしまいました。それは冒頭でも書いた売り場の問題からです。
主婦向けに「生活の知恵」的な書籍をつくるとき、重要な2つのポイントとは?
まずお話をお伺いしたときに考えたのが「売り場によって、売り方がまったく変わってくるな」ということです。
ここで想定される売り場は
- 「女性実用書」コーナー
- 「雑学文庫・新書」コーナー
の2つです。それぞれ一長一短があり、まずはそれぞれの特質を見てみましょう。
売り場で迷子になる?
「女性実用書」はまさに主婦が集まる売り場なので、客層にぴったりですが、「実用書」売り場は「料理」「美容・健康」「育児」といったように、さらにジャンル毎に棚を分けてあります。
そこに「生活の知恵的な雑用書籍」が送品された場合どうなるのでしょう?あらゆるジャンルについて、生活の知恵が載った本ですから、どこでも置いてもらえるような気がしますが、実際には「どこに置けばいいかわからず、返品されてしまう」可能性が非常に高いのです。
実は書店というのは「どこの棚の商品か」ということが非常に重要なのです。売り場毎に売り上げ目標を設定している為、「パッ」と見で、すぐ売り場をイメージできないものは、ほぼ返品確定コースです。
これを「売り場で迷子になる」と言うのですが、本をつくる時に絶対避けたいことです。
実用書を売るには出版社の営業力が必要不可欠
仮に「料理雑学本」というように、売り場を明確化できた場合どうでしょう?この場合、売り場で迷子にはなりません、ナイスアイデアです。
しかし、実用書を売る際に忘れてはいけないのが「出版社の営業力」です。
例えば
- 「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」シリーズ
- 「男子ごはんの本」シリーズ
これらのTV関連の書籍であるとか、明確な差別化要素のある書籍なら「指名買い」なので、「この本」をわざわざ探しに来てくれます。つまりはすでに認知がある、選ばれる理由がある本です。
しかし、ふつう実用書を買うときの顧客心理は「ケーキの作り方の本欲しいな~」とか「楽なお弁当の作り方の本ないかしら?」というような「目的買い」の為、正直言うと、どの本を買ってもいいわけです。
本そのもので差別化しづらいということは、店頭でいかに良い位置をキープし続けることができるか?という営業力が重要になってくるのです。
通常の一般的な書籍の営業と違い、実用書の営業は補充を中心とした棚や平台のケアになります。売れる時期にガッツリ売るというよりは、細く長く売っていく、都心だけでなく地方の郊外型書店もケアするやり方になるので、自然と営業の人数が必要になります。
その点を出版社さんに確認したところ「正直、そこまでのマンパワーはかけられそうにない」との事だったので、この売り場での勝負は避けた方が無難かなという結論になりました。
文庫・新書はレーベルそのものの影響力が絶大
雑学文庫ではいかがでしょうか?
雑学文庫のコーナーを作っている書店ならば別ですが、たいがいの文庫はレーベル毎に管理されるケースが多く、その出版社が雑学文庫のシリーズを出していないと、そもそも雑学好きのお客さんが見る棚には置いてもらえません。
ギャグみたいな話ですが、その出版社が歴史小説文庫のシリーズを出していた場合、歴史小説文庫の隣に、主婦の生活の知恵文庫を置かれてしまうこともありえます。
「雑学の棚」というものもあまり一般的ではないので、迷子コースです。
打開策は、「ついで買い」
本が持つ制約の一つ「売り場で迷子になるとアウト」問題について触れてきました。もちろん本であることのメリットもたくさんあります。たとえば本では映画のように尺がありません。だから情報量の多い、分厚いものでも成立するのです。完全版とか〇〇大全のような「これ1冊あればとりあえずOK」という本ですね。そういう映画をつくると上映時間の問題でどうしても前後編などにならざるを得ません。
それにユーザビリティの高さも魅力です。本はいつでもどこでも、充電しなくとも読めるし、ネットワーク回線が重くてなかなか次のページが見えてこないということもありません。ま、何冊も持ち歩くのは重いし、かさばるから、万能ではないのですけれど。
さて、少し脱線してしまいましたが、相談された企画は実用書としての売り方も、雑学文庫としての売り方も難しい。この状況だと、どうしようもないので、私としては「ついで買い」という売り方を提案させていただきました。つまり何かを買ったついでに、「お、この本も良さそう」とレジに持っていってもらう売り方です。
この「ついで買い」はいろんな業界で客単価を上げるための施策として、すでに効果が実証されています。しかしそもそも商品単価の低い出版業界では、このついで買いのインパクトは出版社、書店どちらにとっても大きいのです。
長くなってしまうので、具体的な「ついで買い」の為の施策や「ついで買い」に効果的な本づくりのポイントについては次回の記事で書いてみます。