累計150万部のシリーズは、一本の電話から始まった

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ハッピーターンは一度食べはじめたら本当に止められないのに、ハッピーパウダー増量の「濃いめのハッピーターン」には「パウダーポケット」っていう溝まで掘られていて、少しでも多くのハッピーパウダーを食べさせようとするその執念に、畏怖さえ感じる出版プロデューサーの西浦です。

出版業界にいると他社の売れている本について『あれは広告めっちゃ打ってるから』『TVで取り上げられたから』という、ある種の思考放棄・探求終了ワードで締めくくってしまう瞬間に出くわすことがあります。
 
これって免罪符みたいなもので、とりあえずそう言っておくと、納得感が生まれたりするんですが、本当にそうかな?と思っています。経験則ですがTVのゴールデン番組に一度出たくらいではせいぜい1万~2万増刷かかるくらいで、それだけでベストセラーにはならないんですよ。何回も出たなら別ですが。

実際には当事者たちが「見えないところ」でコツコツ試行錯誤を繰り返していて、TVや電車広告を打ったタイミングで、業界他社に「見える」ようになってきた、というだけなんですよね。外部の人間にはデカい広告打ったから話題になったように見えるだけで、そこに至る前にすでに売れているんです。
なので、TVや電車広告ではなく、一本の電話が累計150万部のシリーズを生み出した件について書いてみようと思います。

ベストセラーはノーマークの本

ベストセラーをつくりたいなら、「データや数字の後を追いかけてるだけじゃダメだ」と以前、ベストセラーの仕掛け人「営業エース」を探せの記事で書きました。そう思うようになったのは、新人時代、書店営業部の副部長だったFさんが「マナーとコツ」というシリーズの売り伸ばしに成功したのを見てからです。

当時、担当だったFさんに横浜ダイヤモンド地下街の有隣堂さんから「マナーとコツ」という新刊2点の追加注文が50冊ずつ入りました。この本は重点新刊でもなんでもなく、みんなノーマークの本でした。その時点でPOSデータの数値が良かったわけでもありません

『なんか可愛いからレジ前に置いたら、飛ぶように売れたんで』とその書店員さんから聞き「この本は何かあるぞ」と、Fさんは有隣堂さんをはじめ、自分の担当店への提案をはじめました。この時点ではまだ「書店員さんのおかげで偶然売れた」店が1店舗あったというだけです。

重要な一人がみんなを動かす瞬間

有隣堂チェーンをはじめ、Fさんの担当店で展開していただいた結果、「横浜ダイヤモンド地下街」以外にも売れる店があったので、Fさんの担当していたお店の実績を中心にみんなで検討することになりました。そして書店営業部として、反応の良い店の共通点から「大型店」と「女性向けの店」に絞って展開拡大を開始。

一人の営業担当がはじめたことが、部内全体に広まった瞬間です。気持ちよかっただろうなと思います。

ボクも当時はブックファーストさん担当だったので、ブックファースト渋谷店(今、渋谷のH&Mが入っている場所にあった)で大きく仕掛けてもらい、たくさん売っていただきました。

ちなみにブックファーストさんと同シリーズは相性が良く、後にシリーズ新刊の発売時に法人全体でたしか2,000冊ほど発注いただき、なんか仕事したような気になってたのは若気の至りです(笑)

「他の店では売れない」の突破口

促進部みんなで売り伸ばしをしていく過程で「この本は表紙が目立たないので、普通に平積みしても売れないが、ラックで100冊とか、レジ前とか目立たせれば売れる」ということが分かってきました。

なぜかというと

  • この本の客層に合う「女性客の多い店」で売れなかった。→しかし1か所の平積み冊数が少なかった
  • 100冊入荷してても、全然売れない店があった。→お店の奥の方に置かれていて、お客様の導線上にない目立たない状態だった

といったことが、実際にお店に足を運んで分かってきたからです。

これを「売れない、即、諦める」ではなく、

  • 平積み冊数を多く追加
  • 店の奥からレジ前へ展開場所を移動

してもらうことで、売れ行きが一気に加速したので「普通に平積みしても売れないが、とにかく目立たせられれば売れる」ということが検証されてきたのです。

「売れた」とか「売れない」というのは事実ではあるのですが、このように並べる冊数を変えたり、置く場所を変えたりするだけで売れ行きがガラッと変わることがあります。他にもPOP1枚変えたり、横に置く本を変えるだけで売れたりもするんです。数字は過去でしかなく、数字を作り出す意識が大事です。

ちなみにさらっと書きましたが、「現時点で動きが鈍い本をさらに追加で積んでもらう」とか、「レジ前をあけてもらう」っていうのはすごく信頼がいります。信頼とは人間関係でもあるし、「こういう条件で並べたら売れる」という情報や実績、あるいは担当者の確信だったりと、いろんな形があります。書店の担当さんのキャラに合わせて、適切な「信頼」を積める人が営業エースですね。難しいことです。

「偶然」の電話と、その後の「能動的な」行動が150万部をつくる

最初はそんな商品特性はわからなかったのでトライ&エラーを繰り返しましたが、どんどん売れ行き好調店を拡大し、シリーズの新刊も続々と登場。

いきなり全国展開はせず、都市圏の大型店から全国へと徐々に移行していき、地方で本格的に展開する際には、10冊でも十分に目立てる「専用平積みBOX」を作成しました。地方のお店は都心と比べて販売力が弱く、都心の店のように100冊積んだら大量に返品されてしまう恐れがあるため、小ロットでも目立たせる方向へと施策を変えたんですね。つまり一気に全国展開して返品地獄になることのないようしっかり舵取りしつつ、シリーズ8点累計で150万部以上売り伸ばしたのです。そしてこのシリーズではTVも電車広告もゼロです。(新聞広告はやってたと思います)

このシリーズを売り伸ばしているときに書店営業部にいたことは、今思うと貴重な経験だったと思います。たった1本の電話からはじまった「偶然」を、150万部まで売り伸ばすという促進部の「能動的」な「意思と行動」を体験することができたからです。

すべては人次第、やり方次第だということを体験させてもらいました。

 

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増刷率90%。平均部数49,000部。

奈良県出身 同志社大学卒業後、学習研究社(現・学研ホールディングス)入社。
書店促進部を経て、一般書販売課へ配属。2つの編集部を担当し、年間最大400冊のマーケティングを担当。
膨大な点数を扱いつつ、新人著者の売り伸ばしや仕掛け販売に注力。
上原愛加のプリンセスレッスン(シリーズ100万部突破)などの売り伸ばしに成功する。その後、出版プロデューサーとして2010年に独立。

『血流がすべて解決する』(23万部)『奇跡の営業』(6.3万部)など主にデビュー作をプロデュースし、ベストセラーへと導く。

業界では数少ない、出版社マーケティング部出身の出版プロデューサー。

業界の活性化を目的として、版元・書店との人脈を活かした合同勉強会や、新卒向けにメディア就活ボランティアも行なう。

「営業だったからこそ、著者・出版社・書店に提供できるモノがある」と増刷ロジックや書店巻き込みマーケティングを駆使したプロデュースを行う。

本は読者のためにある。という考え方から「ブランディングの為に本を出したい」とおっしゃる方には、笑顔でドロップキックをプレゼント(笑)


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