「ビジネス書のマーケティング」について、その基本を解説していきたいと思います。
特に売れる時期と売れる店に関することです。
目次
ビジネス書の旬は冬
「書店実務手帳」というものがあります。
書店員の方々向けの業務手帳ですが、そこに「売上指数」というデータがあります。
平均を100%とした時の、12か月の売上額を相対的に比較したものです。
その「売上指数」ですが、ビジネス書は以下のようになっています。
1月 112.5%
2月 106.4%
3月 111.8%
4月 103.9%
5月 100.3%
6月 93.1%
7月 95.2%
8月 93.9%
9月 90.9%
10月 92.2%
11月 95.0%
12月 105.0%
(2018書店実務手帳より)
9月の90.2%を最低とし、ピークは1月の112.5%。
日記・手帳や学習参考書のような季節商品と比べれば、年間通して販売できるジャンルです。
暑い時より、寒い時の方が売れやすいと言えますね。
ビジネス書は6月~夏が終わるくらいまではずっと下降傾向であり、あからさまに年末から期末にかけての「第4四半期勝負型」の商材であることがわかります。
4月~夏休みくらいまでは新人の配属、自身の転属などイベントメジロ押しです。大変ではあるものの気分は明るいし、新しい環境に慣れるのに手いっぱいなのでしょう。
しかし下半期から落ち着いて周りを見渡すと、売り上げ目標の下方修正やら、ボーナス減、さらには体感温度の寒さも相まって、「重い空気」を味わい「本」に打開策を求めるのかもしれません。
「うちの新人(もしくは新しく配属された上司)、いろいろ問題あるな…」と気付くのもこのあたりからなのかもしれませんね。
夏のイベントシーズンは海だ山だ、帰省だ海外旅行だと、外で遊びたい、室内にこもるタイプもビジネス書っていう感じではないのでしょう。
冬は逆に寒いので室内やカフェでゆっくりビジネス書で自己研鑽…という日本の四季に合わせた?売れ方です。
市場に合わせたビジネス書を発売すべき月
この「売上指数」に大きな影響を与えるものとして
「フェア」のテーマなど、業界の大きな動きをご紹介します。
1月 ビジネス誌による「昨年売れたビジネス書特集」フェア、確定申告関連フェア、就活フェア
2月 新入社員・フレッシュマン向けフェア、簿記検定
3月 期末の新刊大量投入
4月 決算書の見方、会計の基礎モノ
6月 夏のボーナス需要 株、投資、貯蓄、簿記検定
10月 異動、組織改編によるリーダーシップ、組織管理モノ
11月 経済予測モノ、冬のボーナス需要 株、投資、貯蓄
というような動きに合わせて、売り場がどんどん変えられていきます。
自分の書くジャンルが、何月に店頭でピークを迎えるのか?
新刊搬入日を旬に合わせるよう、狙って原稿を書いていくことも、マーケティングの重要な要素です。
ちなみに年間ランキングの計測は12月スタートです。そしてこの12月はビジネス書が100%を超えて波に乗っていくスタートの時期でもあります。
ビジネス書は12月に発売するメリットがたくさんあるのですね。
仮にこれが6月発売だと、こんなデメリットがあります。年間ランキングが12月はじまりなのに、6月から11月末までの半年分の売れ行きでランキング入りを目指す不利な勝負を強いられます。だったら翌年のランキング入りを目指すということもできるのですが、本は発売直後が一番勢いがあるので、市場が活気づく12月には発売後7か月で失速している可能性もあります。
だったら12月1月くらいに発売して、その勢いを保ったまま11月末まで走り抜ければ、ビジネス書年間ランキングに入る可能性が上がります。
ランキングに入った本は、さらに本屋さんで平積みしていただく機会が増えていくので、10万部越えのベストセラーを狙っていけるかもしれませんね。
量より質
次はどこで売るかに関することです。
2017年時点で、日本の書店数は12,526店です。
あなたの本の初刷が5,000部だとすると、全ての書店に1冊ずつ配本しても全く足りていません。
しかも1冊ずつの配本は通称「見本配本」とも呼ばれ、これでは平積みにはできませんよね?
物理的に考えても平積みには5~10冊は必要です。
初刷5,000部の内の手持ち在庫が1,000冊とすると初回配本は4,000冊。
平積み可能なのは4,000÷(5~10)=800~400店しかありません。
しかも実際には傾斜配本といって、販売力に合わせて配本数には強弱をつけます。20冊配本の書店もあれば、3冊の書店も出てきますので、平積み店はもっと減ります。
つまり数少ない配本店のうち「どの書店で平積みされるか」という考え方が大切になります。
ビジネス書はどこで売るべきか?
結論から申し上げると「都市部の大型書店集中型」から始めるのが最も効率良いと言えます。全国の書店におけるビジネス書の売上金額は、書籍全体の構成比で6.3%にしか過ぎません。ちなみにトップ3は文庫19.4%、実用書13.2%、文芸書12.1%です。(いずれも2010書店手帳より)
つまりビジネス書なんていうものは、文芸書の半分くらいの規模しか持っていないのです。
ところがこのデータを坪数で細かく見ていくと、面白い傾向が出てきます。
<書籍売上金額のビジネス書構成比>(2010書店手帳)
100坪以下 5.7%
101~200坪 6.4%
201~300坪 7.2%
301~400坪 7.4%
401~500坪 9.3%
501坪以上 14.2%
坪数の上昇と共に、構成比が上がっていき、401坪以上で9.3%、501坪以上で14.2%になっているのです。
特に501坪以上の書店の売上金額構成比では1位専門書21.5%で、2位ビジネス書14.2%、3位文庫12.1%と、2位にまで上昇しているのです!(401~500坪でもビジネス書の9.3%は4位と、重要度を増しています。)
ビジネス書は「大型店偏重」と「全国展開」のジレンマ
上記のように店の規模が大きくなるにつれて、ビジネス書の売上構成比は大きくなります。これは、店の規模に比例して書店内でのビジネス書の重要度が増すという事です。
当然、重要度の高いジャンルの商品は、売り場面積も広く取られます。重要度の高いジャンルの棚担当者は、優秀な方が割り当てられることも多いです。
逆に、中小規模店においては重要度も低いので、元々狭い売り場面積の中でも、さらに展開スペースが狭くならざるを得ません。大型店は東京都下、横浜駅周辺、名古屋駅周辺、大阪、北海道、福岡といったエリアで集中傾向にあります。もちろん中小規模店でも駅前型のお店などはビジネス書売れますが、それ以上に文庫新書やコミックに力を注いでいます。
しかしここで矛盾したことを言いますが、出版社としては全国で売れる本を求めています。
都市部の大型店に通う、感度の鋭い方だけでなく、各地域の一番店に通うビジネスマン、地元駅の本屋に通う高校生でも買えるような内容の本です。そうでないと部数が伸びないのです。
10万部を超えるような本はすべて全国で売れる本です。
つまりビジネス書は大型店で売れる傾向にありながらも、ベストセラーにしていくにはそれ以外の店で売れるようにしなくてはいけないのです。
それはビジネス書の一般書化です。すぐやる!系の本などはその最たる例ですね。フォレスト出版で森上編集長が担当された「めんどくさいがなくなる本」なども。
ビジネス書の一般書化をやれていない「ふつうのビジネス書」はどんどん売れなくなっています。(いっそ本格的でハードスタイルの、ぶ厚い本の方が売れたりする)
ビジネス書マーケティングではまず「大型店に絞って戦力を投入する」ことから始め、後に全国展開できるよう「企画段階から絶妙なバランスで一般書化」しておきましょう。
あるいは海外翻訳モノのように、いかにもビジネス書っぽいハードな内容に振り切るかですね。
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