こんにちは、出版プロデューサーの白木賀南子です。
ある日、西浦から「すごい編集さんがいる! 絶対すごいノウハウ持ってるから取材いこう! 取材!」とかなり興奮ぎみに知らされたすごい方がいます。(「すごい」を連呼してました)
あなたはご存知でしょうか?
SBクリエイティブの杉浦博道さんという編集さんのことを。
杉浦さんはたったの7年で、30万部の大ベストセラーを手掛け、さらに10万部超えの書籍を7冊担当した編集者。(取材時。2020年2月の時点では10万部越えが9点)
つまり1年に1冊以上のベストセラーを生み出しているすごい人なのです!
そのうえ、得意とする語学書にいたっては驚異の増刷100%をマーク!
そんなスーパーヒットメーカーである杉浦博道さんにベストセラーの秘訣を聞いたはじめてのインタビューです!
目次
出版の仕事が好きならどんなジャンルも楽しめる
—杉浦さん、はじめまして!今日はよろしくお願いします。
杉浦:はい、よろしくお願いします。
—まずは杉浦さんのことを伺いたいのですが、どういった経緯で編集者になられたのですか?
杉浦:出版業界でのキャリアのスタートは雑誌なんです。
大学院を卒業後、編集プロダクションで『ファミ通』や『宝島』といった雑誌の編集や語学教材も担当していました。ライティングから写真撮影、全部自分1人でやりましたね。
その後は、版元に転職してオーディオ機器の専門誌、その次はパズル雑誌を担当しました。
西浦:書籍の編集者になったのはいつからですか?
杉浦:約7年前、アスコムに転職してからなので、35歳のころですね。「フリーランスになった時にやっていける状態にしたい」と思ったのがきっかけでした。
オーディオ雑誌やパズル雑誌が多く、経験としては不十分だなと思ったので。
ビジネス書、生活実用書、語学書、タレント本、コミックエッセイなどを担当しました。
西浦:雑誌も本も、杉浦さんが扱うジャンルは多岐にわたっていますね。
杉浦:今でもそうですが、ジャンルを広げたいんですよね。飽きっぽいし(笑)
色々やってみて気づいたのですが、自分が興味ない分野でも「出版の仕事が好きなら楽しめるんだな」ってことに気づかせてもらいました。
今作っている本もそんなに興味あるジャンルじゃないんです。ビジネス書も語学書も本当に興味なくて(笑)
西浦:編集者としては少数派の意見ですね(笑)
興味あるジャンルの本を作りたい人が多い気がするのですが、編集の仕事のどのあたりに面白さを感じているのでしょうか?
杉浦:雑誌をやっていた時は、アンケート読んで「次の号ではもっと読者を驚かせたい!」という気持ちになって楽しかったですね。
本も「こう言ったら読者が驚くかな、面白いかな」って考えながら作ってます。
西浦:「もっと読者に喜んでほしい、驚かせたい」っていう純粋なサービス精神ですね。杉浦さんがヒット作を連発できる理由が分かった気がします。
学生の頃から編集者になりたかったのですか?
杉浦:いいえ、もともとは天文学者になりたかったんです。
大学は物理学専攻で、大学院では都市計画を専攻しました。
現代文の成績なんてズタボロで、偏差値40…活字嫌い。
西浦:それで編集者って・・・(笑)
杉浦:そうですよね(笑)
受験の際に小論文があって、それはなぜか点数が良かったんです。あと、大学で漫画研究会に入って、話づくりの面白さを経験したのもあって、進路を考える時に出版業界を選びました。
周りは電機メーカーとかゼネコンに就職する中、僕だけでしたけどね(笑)
—ド理系に雑誌経験が加わった結果、どのように杉浦さんが本を作ってきたのか、詳しく教えていただきましょう!
5秒ルールで読者を集めよ!
—早速ですが、本を作る際に杉浦さんがこだわっているポイントがあれば教えてください。
杉浦:「5秒ルール」というのを作っています。
西浦:5秒ルールとは?
杉浦:表1を見て「5秒で凄さがわかる本」ということです。
表1こそが、第一関門なので、僕は企画書の段階でここをチェックしているんですね。
この部分(表1)で多くのお客さんを集められないと10万部には届かないです。
西浦:知らない方もいらっしゃるかもしれないので補足すると「表1」は、一般的に表紙と言われる部分ですね。
5秒で凄さがわかるなら、そりゃ企画も通りますよね。表1作りで特に意識する部分はありますか?
杉浦:タイトルやオビの言葉で、表1のここのスペースに何が入っていたら面白そうか、ライバルと差をつけられそうかを考えます。
例えば、『瞬読』(8万部/2019年7月現在)という本。こんなに一瞬で読めて、内容忘れない読書術なんかない!と思って作りました。
それを「1冊3分で読めて、99%忘れない読書術 瞬読」と表現することで、効果効能やメリットを強く出すことができました。
編集仲間のウケもすごく良かった。本屋さんやAmazonでたまたま見かけて、「これ誰が編集したの? 売れるんじゃない?」って言われましたね。
西浦:あれはすごくいいタイトルですよね!
「速読」って言葉を使わずに速読術であることを伝えつつ、単純に「“速”より“瞬”の方がはやい」イメージが浮かぶ。
まさに「瞬」感的に理解できます。
表1以外の部分、例えば見出しに何かこだわりはありませんか?
杉浦:「見出しを尖らせる癖」はあるかもしれません。
見出しは僕がけっこう作っちゃうことが多いんですけど、読者が気になる、印象に残るような言葉を雑誌の見出しのようにパンチを効かせて付けます。
西浦:そこ聞きたいです! パンチの効いた見出しってどうやったら作れるんですか?
杉浦:著者の文章から「これ言ったらウケるな」と思う面白いワードを抜き出してつけています。
よく、見出しって、文章の総論を現した言葉にすることが多いと思うのですが、文章を包括してしまうとパンチ力は弱まる。
西浦:言葉はまとめない方が強い、と。
杉浦:例えば『老人の取扱説明書』(15.5万部)という新書。
本の内容は、老人の困った行動を紹介しているのですが「なぜスーパーの店頭では、ティッシュの大安売りをしているのか?」など、読者が「なんだそれ? 全然老人と関係ないじゃん」と気になる見出しをあえて付けています。
他にも「人間は死ぬまでエッチな生き物」「老人もアダルトサイトをよく見てる」とか。
西浦:この本、見出し本当に面白いですよね(笑)
「日本の信号機はおばあちゃんに渡れないように作られている」とかなかなか思いつかないですよ。
強い言葉はどうやって探すんですか? それは見ればわかる感じ?
杉浦:感覚的なんですけど、「なんて言ったらみんなビビるかな」「これ言ったらウケるかな」って常に考えています。中身をサーっと読んで、印象に残る言葉ですかね。
西浦:なるほど~。中の文章にも杉浦さんらしい構成の仕方とか、こだわりポイントはありますか?
杉浦:バカ代表として活字嫌いの人でもわかりやすく、読みやすい文章を目指しています。
西浦:バカ代表って(笑)でも珍しいですね、編集者さんって本や活字が大好きな人が多い気がします。
杉浦:自分が字だらけの本を読むのが苦手なんで…「編集者なのに活字嫌い」は他の編集者さんと差別化できているところかもしれません(笑)
西浦:杉浦さんにとって「わかりやすい本」「読みやすい文章」の定義はあるんですか?
杉浦:くどいくらい説明してくれる文章ってことかもしれません。
著者の原稿を読んでいてよくわからないところは、「こういうことだろ!」と思って加筆したり。飛躍をなるべく埋めるようにしたりしています。
西浦:けっこうリライトするんですね。
杉浦:オーディオ機器の専門誌を担当していた時に「著者からもらった文章そのまま載せるなよ!」って言われていたんです。
彼らはオーディオのプロだけど文章のプロではないから、もらった文章をそのまま載せると読者に伝わらない。
だから、原型をとどめないくらいわかりやすく直していました。
自分があまり興味ない、知識のない分野だったから逆に読者目線で直すことができて良かったのかもしれません。
西浦:自分が詳しい分野だと凝った内容をつくりたくなるし、その辺のバランスって難しいです。
杉浦:専門用語を使わずに読者に興味を持ってもらうにはどうしたらよいか、どんな説明を付けると興味を持ってもらえるのか。
読者対象を意識して文章を書くことは、雑誌での経験が活きているのかもしれません。
—5秒ルールで読者を捉え、パンチ力のある見出しで興味を引き、バカ代表として誰にでもわかりやすい文章で伝える10万部超えの三段戦法! 次は、語学書についてお聞きしてみました!
結果にコミット!ビフォアアフターが大事
—担当された語学書は増刷率100%という驚異的な数字ですが、語学書作りは他の本作りと何が違うのでしょうか?
杉浦:語学書に限らず他の実用書もそうですが、「ビフォアアフター」がすごく大事なんです。
語学書って昇進や異動のタイミングなど、大人になってから必要に迫られて読む人が多い。
逆に、健康書って死が迫っている時には読まなくて、「なんとなく周りで流行っているし、これやったらよさそう」という理由で買う人が多い。
語学書は、結果がすごく求められていると思います。
西浦:読者の、本に対する「ガチ度」が違うんですね。
杉浦:そうなんです。
例えば、『ただのサラリーマンが時間をかけずに半年でTOEICテストで325点から885点になれたラクラク勉強法』(10万部)という本は、タイトルにあるとおり、とにかくビフォアアフターがすごいんですよね。
手を抜いて楽して勉強するという本はこれまでになかったので、類書との差別化もできました。
「英語の勉強をしていたらTOEICの点は上がりませんよ」「英語ではなくTOEICの勉強をしましょう」という逆張りの主張がバズってAmazon総合4位にも入ったんです。
西浦:売れる本って、なんらかの「新しさ」が必要だと言われますが、語学書で新規性を出すのは難しくないですか?
杉浦:そうなんですよ。
TOEICの本なんかは、試験対策の本なので、試験に出てくるパート1からパート7は絶対にはずせないですし、冒険しにくい。
「これだけやったらいいよ」とカンタンシンプル!を売りにしたいところですが、語学書こそ奇をてらうと「うさんくさい!」と思われてしまう。
なので、知識は新しくなくても、学び方や説明の仕方を新しくして、愚直に良い物を作ろうと意識しています。
西浦:「学び方や説明の仕方の新しさ」って、どうしたら発見できるんですか?
杉浦:類書分析をかなりしますね。語学書に限らず、他の本もやります。調べて分析するのが好きなんです。
西浦:一冊の本をつくるのに、だいたい何冊くらい類書分析をするんですか?
杉浦:20冊くらいまとめて買います。
西浦:20冊! それはすごい! どうやって分析していくんですか?
杉浦:「『ローマの休日』を観るだけで英語の基本が身につくDVDブック」(11万部)という本を作った時の例をお話ししますね。
著者から「ローマの休日」こそ、表現や発音が模範的で癖がなくて、日常使いができるフレーズをかなりカバーしているとお聞きしたんです。
でも映画で学ぶ英会話の本はたくさんあったし、「ローマの休日」をモチーフにした英会話本は既にたくさん出ていたので、差別化にとても苦労しました。
そこで、あらゆる類書を買い込んで、長所・短所を分析して書き出しました。そこから、長所を厳選して入れるように構成し、そこに今までにない付加価値を追加することに注力しました。
例えば、フレーズ集を巻末に付けたり、発音の変化を規則化したり。おかげで「これ1冊で英会話がマスターできる!」と言い切れる最強の本を作ることができました。
西浦:(類書分析資料を見ながら)徹底的に研究されてますねー!すごく大変じゃないですか?
杉浦:実は、語学書はフォーマット(型)が繰り返されていく紙面展開になっているので、類書分析は意外と簡単にできるんですよ。型が決まっているので、それを押さえてしまえば、わりとスムーズにできます。
そういう意味では、語学書作りは、最高のフォーマットを作るのが大事といえるかもしれません。
西浦:最高のフォーマット作りって着想、面白いですね!
語学書の類書分析はスムーズにできるとは言うものの、増刷率100%はなかなかできないですよね…。
杉浦:語学書は、きちんと作れば努力が報われる分野なので、そこが、ごく稀に努力をすることのある自分には相性が良かったのかもしれません(笑)
杉浦さんにとって「ベストセラー」とは?
—最後になりますが、杉浦さんにとってズバリ「ベストセラー」とは?を教えてください。
杉浦:「ヒロミチ スギウラが作る本」
西浦:おーーーーーーー!!!!!
杉浦:冗談です(笑)『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演時の本田圭佑さんを意識しすぎました。(考えや生き方が好きで憧れの方です。)
真面目に答えると、普通すぎますが、ベストセラーとは「長く多くの人の記憶に残る本」だと思います。
ブームにのっかるとすぐ忘れられてしまう本になってしまうので、ベストセラーは長く人の記憶に残ってほしいです。
古典でいうとバッハやモーツァルトの曲みたいな。僕は、X JAPANが好きなんですが、YOSHIKIも「100年残る音楽を作りたい」って言ってたんですよね。
すごく青臭いんですけど、そういう本はいいなって思っています。
西浦:いいですね、僕もそういう本を手がけていきたいとすごく思います。
杉浦:「ベストセラーとは、後づけである」っていう言い方もできますね。
結局、売れた理由なんて全部、後付けなんです(笑)
売れた売れなかったの理由ってキレイに分かれない場合が多い。
出版社が小さいとか営業が弱いとか、1冊の本に売れる理由と売れない理由両方持ってたりするので。コンテンツが良くても、時代の流れや運もありますし、何がベストセラーになるかなんて、わからない。いい本でも売れなかった本はいっぱいあるし、売れたけどカスみたいな本もある。
僕の仮説ですけど、売れた本のいいところを分析して加点方式で企画を考えていった方が成果が出るなと思っています。
でも、分析して、何らかの法則を導き出して、それでやっても失敗したりするので、結局は全部後付けですよね(笑)
西浦:生涯編集者を続けたいと思いますか?
杉浦:本当は公園で昼寝したいです。文字嫌いだし、本作るの面倒臭いですし(笑)
西浦:あー、言っちゃった(笑)
杉浦:最近、2~3万部の本を出しても、嬉しいという気持ちよりも、ほっとしたって感じが強いんです。売れる本を作らないといけないっていうプレッシャーみたいなのは常にあって。
30万部までは出せたので、50万部、100万部の本を出したいという目標はありますが、「これを読んで、人生が好転した!ありがとう!!」と感謝されて地味だけど役に立った本とか世間に衝撃を与える本を作ってみたいです。
西浦:あー、すごくわかります。
杉浦:実は、出版を目指したきっかけの1つに『完全自殺マニュアル』という本があって。
別に、自殺の本が作りたいというわけではありませんよ(笑)
中身は、綿密すぎる取材に基づき、著者も自ら樹海に入ったり、首を途中まで締めたり、体をかなり張っていて、中身はものすごく充実してるんです。
自殺を勧める本ではなく、淡々と自殺の方法が誰でもできるように書かれていて、実は質実剛健。
「いざとなれば自殺という選択肢を用意しておけば、もっと気楽に生きられる人も多いはず」というスタンスにすごく共感しました。若い人はあまり知らないかもしれないですが、『完全自殺マニュアル』はかなり衝撃的な本で、多くの人の記憶に残っているはずです。
100万部を突破していて、こんな本がいつか作れたらいいな~と思います。
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10万部超えは特別な飛び道具があるわけではなく、読者のために良い本を作りたいという思いと努力の結果なのだなということに気付かされた取材でした。
杉浦さんは私が事前に用意した質問1つ1つにきちんと答えを準備してくださったり、類書分析をした資料を見せてくださったり、本当に丁寧に答えてくださいました。
杉浦さん、本当に貴重なお話しありがとうございました!
最後まで読んで頂きありがとうございました。