読書のスタイルは人により様々です。
全く読書をしない人もいれば、新刊のみ読む人、さらに毎日読書に夢中、という人もいます。
私の場合は10代前半までは多読で、いつも朝から晩まで本を読んでいたものでした。
しかし現在は決まった作家の新刊を購入する他に、内容が気になったものを購入して読む程度となっています。
さて、今回は「読書について 」という本を紹介します。
子供時代に「たくさん本を読みなさい」といわれてきた人なら、このタイトルから「読書を推進する内容」をイメージするのではないでしょうか。
しかし実際には、それよりさらに深い内容となっています。
目次
どんな本なのか
「読書について」は、主意主義とペシミズムの代表者といわれるドイツの哲学者、アルトゥール・ショーペンハウアーによって書かれた本です。
ペシミズムとは、日本語では「悲観主義」と訳され、世界は悪や悲惨に満ちたもの、という人生観をいいます。
ショーペンハウアーの悲観主義は、哲学や文学、芸術などの分野に大きな影響を与えました。
全編を通し、辛辣で簡潔な文章です。今から150年以上前の文章ですが驚くほど現代にも通じる部分が多いのが特徴です。
特に文章を書く人にはおすすめしたい1冊です。
多読することへの警告
この「読書について」は、
- 自分の頭で考える
- 著述と文体について
- 読書について
の3部から成り立っています。
この中の、「自分の頭で考える」「読書について」では、一貫してショーペンハウアーは、「多読」を批判しています。
読書とは、他人の考えを読むことであって、「多読に走ると、精神のしなやかさが失われる」としています。
本を読むこと自体は知識を得たり考えたりするきっかけになるものの、ずっと読み続けると考える時間を作れないのだというわけです。
「自分で文章を書く修行」の一環として読書に励む人もいるでしょう。
しかし、ショーペンハウアーは、読書が書く修行になる方法は1つしかないとしています。
それが何であるかは、ぜひ本書で確認してみてください。
なるほど、と思わずにはいられません。
匿名で書くことの卑劣さ
近年、インターネットの普及に伴い、SNSは驚くほど進化しました。
ブログ、Facebook、twitterなど様々なツールにより、私たちは自由に自分の考えを発信することができます。
そんなSNSには、匿名で利用できるという特性があることから、攻撃的な文章を見かけることは少なくありません。
しかし、そんな「匿名での発言」について耳が痛くなるような記述が、本書の「著述と文体について」という部分に収められていますので引用します。
ルソーは『新エロイーズ』序文に「名誉心ある者なら、自分が書いた文章の下に署名する」と書いている。
この逆も言える。
すなわち「自分が書いた文書の下に署名しないのは名誉心なきものだ」
これは攻撃的文書におおいにあてはまり、たいていの批評がそうだ。
だからリーマーが『ゲーテにまつわる報告』で言ったことは正しい。
「面と向かって率直に発言する相手は、名誉心ある穏健な人物だ。
そういう人物なら、お互いに理解し合えるし、うまく折り合い、和解することができる。
これに対して、陰でこそこそ言う人間は、臆病な卑劣漢で、自分の判断を公言する勇気すらない。
自分がどう考えたかはどうでもよく、匿名のまま見とがめられずに、うっぷんを晴らし、ほくそ笑むことだけが大事なのだ」(53ページ 著述と文体について より)
これだけではなく、さらに言葉を重ねて、ショーペンハウアーは「匿名の卑劣さ」について述べています。
この部分は実に興味深く、意外にも、SNSなどを多用する現代の私たちにも通じる部分となっています。
もちろん、実名でSNSを利用する人もいますし、攻撃的な文を書く人ばかりではありません。
しかし、上記の文章が当てはまると見受けられる発言が多いのは事実でしょう。
またこの「著述と文体について」では、ドイツにおける言語破壊や語彙の減少についても触れられています。
100年以上前に書かれた文章とは思えないほど、現代の日本の問題点ともリンクしている、実に興味深い章となっています。
良書を読むための条件
ショーペンハウアーの言葉は辛辣で、読み手にとっても書き手にとっても、耳に痛い言葉ばかりです。
しかし同時に、「どう読むべきか」「どう書くべきか」について考える、大切な機会となるに違いありません。
「読書について」の中に、『良書を読むための条件は悪書を読まないこと』とあります。
具体的には、
- 大衆受けする本は読まない
- 偉大な人物自身が書いた本や、古くから名作と呼ばれる本を読む
という内容です。
人生は短く、時間には限りもあることから、知性を毒し精神を損なう悪書は読まない、というのがショーペンハウアーの考えです。
悪書と呼ばれる大衆受けする本は、読みながら考えることも読み返す必要もなく楽なものです。
しかし、楽な読書によって良書を読む時間を損なっているとしたら、確かに、それは避けるべきことなのかもしれません。
まとめ
「読書について 」は、本を読むのが好きな人にも、文章を書くのが好きな人にも、ぜひ読んでいただきたい良書です。
本を読むことや、文章を書くことについて、この本を通して考えてみてはいかがでしょうか。
(文:朔)
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