キングコング西野さんの「革命のファンファーレ 現代のお金と広告」が発売6日で10万部と好調らしい。
先に申し上げますと、僕は西野さんの信者でもないし、逆にアンチでもないです。
ただ、10年以上、出版業界でマーケティングについて、いろいろ悩んできた人間として先日西野さんが投稿された、あるブログ記事を読んで「そうだよなぁ」としみじみ思いました。
なのでアンチでも信者でもない、本のプロデューサーが「実際に著者が取り入れるなら?」について書きたいと思います。
目次
いきなり1000万円のプロモーションを仕掛ける
まずこの記事を読んで頂きたい。
全国の図書館職員の皆様へ
一言でいうと「5500冊の本を、図書館に寄贈する」というものです。
5500冊寄贈って。。。いったい、いくらかかるの?と疑問に思ったので、まずはコストを計算してみましょう。
この本「革命のファンファーレ 現代のお金と広告」は税込1620円の本なので、5,500冊を定価で買っていれば891万円。出版社から8割の価格で購入してても712万円強の自己負担です。
さらに発送費もかかるわけで、クロネコメール便とかで送っても、1冊150円強なのでたぶん1000万円弱かかってる計算になります。
発売直後に1000万のマーケティング投資!!!!!!
すごい・・・10万部いった本はやっぱりやることの規模が違うな。
ところで「革命のファンファーレ」は初刷7万部なので、その印税は
- 1,620円×印税10%×7万部=1,134万円
となります。
初刷で1,000万円強の印税なので、初刷の印税全額を本のマーケティングに使うよ!ということですね。もちろん西野さんなので他にもたくさんマーケティングの仕込みをされてるでしょうから、実際はもっと大きな額を用意されたと思います。
この「初刷の印税分を販促活動に使う」というのはよくやる手です。
ただ決定的に違うのが、普通の著者だと初刷5,000部~7,000部くらいだということ。西野さんの10%かそれ以下のスタートですね。印税も80万円~113万円くらいです。
過去に10万部出したような著者の第二弾でも、初刷2万部ってところだと思うので、印税は324万円です。
「西野さんのやり方は、西野さんだからできるんだ」「彼は例外と思ってた方が良い」と出版業界内でもよく言われるのですが、それも一理あるという数字ですね。
さらには印税や部数に関する数字だけではなく、彼の元々の知名度や、タレントしての蓄積がしっかりあったこと、何よりご本人がTVに出られるというPRの強さでも「西野さんは西野さんだから」と言われて「そうだね」と首を縦に振り続けるしかできなくなりそうです。
ハデさだけじゃなくて、覚悟のある販促活動
やり方をそっくりそのままマネするのは難しい。
けれど考え方のベースは見習うべきだし、知名度は別にしても、かける時間や手間、お金は同じかそれ以上やれる人もいると思います。
僕が今回「著者はみんな見習うべき」と思った考え方(というより覚悟)が「買う人を増やしたいなら、選択を迫られる人の分母を増やせばいい」というシンプルな法則です。
これは以下に引用する『えんとつ町のプペル』無料化に関する部分に書かれています。
【買う人】の数を増やすのは簡単で、「買うor買わない」の選択に迫られる人を増やせば…つまり、分母を増やせばいいだけです。買わない人に費やしたエネルギーは、まったく無駄になるのかというと、そうではなくて、「今、『えんとつ町のプペル』を無料公開してるよー」と口コミをしてくれて、また「買うor買わない」の選択に迫られる人を増やしてくれます。
この『えんとつ町のプペル』については「無料化」という部分にとらわれ過ぎると「無料か有料か」の議論になってしまうので、そこは引用せず、あえて結論の部分だけを抜き出してあります。
ここだけ読むと「本を買ってくれる人」を増やすのは簡単で、分母を増やせばいい。
特に「買うか買わないかの選択を迫られる」人の分母を増やせばいいだけというシンプルなことに気づけます。
しかも買うか買わないかで「買わない」を選択した人も、こちらからのアプローチが面白ければ、クチコミしてくれる人が出てくるから無駄じゃないよねということです。
めちゃくちゃ前向きだし、無駄が多かったって、それを気にせず分母増やして本売るぞ!っていう覚悟の話だと思うのです。
分母を増やす、泥臭くいく
この記事を読んで、僕が思ったのは「100人にリーチして、1人しか買わない本なら、じゃあ100万人にリーチすれば1万人買うってことだね」ってことです。
僕は「著者が自力で売り伸ばした冊数の10倍売れる」という法則を体感しているので、100万人にリーチして、1万冊売れたら、10万部になるということです。
もちろん「じゃあ図書館にはすでに無料で貸し出されてる本なんてたくさんあるのに、なんでそれらはベストセラーにならないの?」という疑問が生まれるのはごもっともですが「100人にリーチして0.1人しか買わない本」だからかもしれませんね。
つまりがんばって100人中10人が買うような、コンバージョン率の高い内容にするとか、そもそもコンバージョン率の高い層に狙って届けるとか、アプローチの方法を話題性のあるものや、思わず吹き出すような方法にして拡散率を上げるとか、こっちの工夫次第だと言えるのです。そもそも図書館で無料で借りられるのは当たり前で、話題性なんてないのです。
そう考えればやれることはたくさんありますね。facebookで100万人にリーチできるよう、facebookページを運用して、記事をシェアしてもらう。広告も打つ。
SNSでつながってる人全員、今まで名刺交換した人全員など、あらゆる自分が過去に縁のあった一人一人に「買ってください」というお願いを、恥ずかしさや心苦しさに耐えてする。
それにかかった時間やお金に比べて「効率の良い売れ行き」を示すとは限りません。むしろキツイでしょう。
それでも自分で「買うか、買わないか」の選択を相手にお願いしたわけだし、結果例え100冊でも売れればありがたいし、1000冊売れることもありえます。
分母を増やしさえすれば、買う人は増える。
買わなかった人への投資も、無駄ではない。
そう思って、泥臭いプロモーションをやってみましょう。
僕が今までプロデュースした本やマーケティングを担当した本で、特に売れた本は「もともとすごく大きい分母を持ってる人」か「超・地味な営業メッセージを送る」「とにかく足で稼ぐ」ということをやってきた人たちです。
どちらかというか、どっちもの人がほとんどですね。
浮動票は出版社、固定票は著者の仕事
この記事を読んで「あ、それでいいのか」となんだか前向きな気持ちになりました。
なぜかというと、かつて出版社でマーケティングをしていたとき、100人にリーチして1人しか買わない場合「99人には無駄だった、効率が悪い」と判断してきたからです。それは仕方なくて、限られた資源で自社の売り上げや利益を最大化しなくてはいけないので、「効率悪くても覚悟とポジティブさで全力投球」というのは、マーケティング担当として選択できない手法でした。
だから当時「いかに本屋さんで良い場所にたくさん積んでもらうか」という施策、つまり「仕掛け販売」に活路を見出し、書店さんと一緒にベストセラーを作っていました。自分たちの創意工夫と書店さんとの信頼関係さえあれば、最も効率と費用対効果の良い手法だったからです。
当時の判断は、今でもマーケティング担当の考えとして間違ってないとは思います。
(今の時代ならもっとネット絡めるかもしれないけど、当時はまだmixiが浸透し始めたかな程度だったので)
でも今は昔以上に返品率をとにかく下げたい時代なので、店頭での仕掛け販売はやりづらい。店頭に来てくれている、いわば浮動票の読者狙いだけでなく、固定票をもっとゲットせねばならないのです。
この固定票をゲットするのは著者の仕事であり、ひいては僕ら出版プロデューサーが著者から「どうすればいいの?」と聴かれる領域ですね。
これについて今まで効率の良いものばかり絞って提案してきましたが「西野さんだってやってるんだから、僕らも分母を増やす方向で努力する」っていう選択肢でいいのだと思ったのです。