出版されても売れない企画や、そもそも出版すらできない企画が多い中で、「この人の本を絶対に出版したい」と思われる企画は何が違うのでしょうか。
この答えにはいろんな視点があるので、たった一つに絞るのは難しいです。しかし、僕が出版プロデューサーとして「この人の本を絶対に世に出したい!」と思ったケースについて書いてみたいと思います。
- 出版プロデューサーって著者の何を見てるの?
- 本を書きたいなら「何を」伝えればいいの?
- なんのために本を出版するんだろう?
というような疑問をお持ちの方のお役に立てば良いなと思います。
目次
面談で聞くこと、訊かないけど見てること
僕は必ず、著者と直接お会いしてから、プロデュースさせていただくかどうかを決めています。著者を選ぶというとおこがましいですが、相性のマッチングみたいなもので、クライアント側にも僕のことを知っていただいて選んでいただくための面談でもあります。
面談では、「自分がどんな人間か」ということを互いに出しあえるよう意識しています。とはいえ初対面で心の中までさらけ出せるようなケースはほぼありませんから、100%理解できるなどと思ってはいません。それでもなお、言葉に出来ない空気感のようなものは案外伝わるものです。
言葉ではなく行動を重視
「人となり」を知るために、まず僕がする質問は「何をしてきたか」と「何のために本を書きたいのか」です。
言葉ではいくらでも立派なことを言えますから、「何をしてきたか」という「行動」を最初に質問するのです。これによって実績も伺えますから、企画作りのベースになっていきます。そして、やってきたことを聞きながら「なぜ、それをしてきたのか」探っていくのです。
「動機」と「やってきたこと」の納得感
「なんでそれをやってきたんですか?」と直接聞いたり、質問はせず自分の中で共通項を紐づけたりして、動機を掘り下げていきます。
この「動機」と「やってきたこと」に、納得感のある方は信頼度が高いです。明確な理由があるので、読者にも共感してもらいやすいのです。
納得感が全くない動機、例えば「本当の自分を探しに10年かけて世界を旅してまわって、インドで受けたレーシック手術がきっかけで、帰国後日本一のラーメン屋を起業した。」って言われたら読者の頭が混乱するし、プロフィール欄にも何を書いたら良いかわかりませんよね笑。
でもこんなレベルで意味が分からないことはあんまりなくて、みんなそれなりに納得感のある理由で事業を行っています。そしてそれが最大の問題点なのです。
本音の部分が、読者に届く
「それなりに納得感のある」ということが非常にやっかいなのです。僕が知りたいのはもっと本音の部分であって、取ってつけたようなきれいな言葉ではなく、心からの動機が知りたいんです。
なぜなら、本気の言葉しか、読者には届かないからです。本気でクライアントのため、読者のためと思える理由・体験がある方の言葉は強いです。そういう方の中には明確な読者像がいるので、本のベクトルがブレることなく、読者のために本を書けます。
口でいくら「読者のため」と言っててもダメ
逆に、口でいくら「読者のため」「クライアントのため」と言っていても、心の深い部分で「自分のため」が大きいと、後でちらちらとエゴが顔を出します。ブランディングがどうとかお金がどうとか、あるいは分かる人だけ分かればいいとか、そういう話になってしまうのです。もちろんプロであり、経営者ですからブランディングを考えたりお金についてちゃんと考えるのは間違いではありません。
ただ、それを目的にしてはいけないのです。本はあくまで読者のために書くものだからです。
後にベストセラーとなる本の面談実例
ここからは僕が実際に「この人の本を絶対に出版したい」と思った著者との面談について紹介します。
面談からはもう3年経ったけど、この話をオープンにできるのはもっと先のことだと考えていました。なぜなら僕には書くタイミングを決める権利はなくて、著者である堀江 昭佳さんのタイミングを待つべきものだったからです。
そして「血流がすべて解決する」発売1周年のタイミングで、とうとう堀江さん自身が口火を切られたので、僕もこうして書くことができました。
見えなかった根っこの部分
2014年4月21日にご紹介を頂いて、堀江さんと面談を行っていました。
2時間ほど目黒のカフェで「やってきたこと」についてお聞きして、自分なりに堀江さんが婦人科専門の漢方薬剤師として、主に不妊で悩む方のために仕事をしている理由を整理していきました。
でも、正直言うとよく分からなかったのです。すごい実績をお持ちで、これだけのことをしてきた方なら、きっとすごく中身のつまった本になるだろう、とは思いました。しかしそれだけの実績を上げながら「なぜ婦人科専門の薬剤師なのか」「なぜ不妊で悩む方のために仕事をするのか」の理由が見えてきませんでした。
ただ「成り行きでこうなりました~」という印象だったのです。それだと読者が共感しづらいかなぁ・・・と思ったので、正直に『堀江さんが、なんでこの仕事をされてるか、根っこの部分が見えないですね・・・』と伝えました。
実は、ボクはゲイなんです。
すると堀江さんが一度、席を外されました。そしてしばらくして、戻ってきた時に
『実は、ボクはゲイなんです。』
と、突然、告白されました。
僕にとっては頭を「ガツン!」と殴られたような衝撃です。
さらに続けて、
『だからこそ、心の檻に閉ざされたひとの気持ちがわかるし、そこから解放された時の喜びがわかります。そのひと達の、その気持ちに共感するからこそ、この仕事をしています。』
『だけど、このことをパブリックな場でオープンにすることはできません。だからボクに本は書けません』
と言われました。
そしたら、なぜか泣けてきました。
この人だから書けることと、だからこそ書けない理由
涙がポロポロ、ポロポロ出てくるし、まさか出版の著者面談で泣くなんて思ってないからティッシュもないし・・・。仕方ないから『あれ?すいません、、なんで泣いてるんでしょう、僕(笑)』って言いながらテーブルのナプキンで涙を拭いてました。
話してたらいきなり『ゲイなんです』と言い出すし、言われた側は泣き出すし、他のお客さんからしたら完全に意味不明な2人でした(笑)
堀江さんも「なんでこのひと泣いてるんだろう・・・?」と思われたそうで、その時のことは【カミングアウト。〜『血流がすべて解決する』発売1周年に心からの感謝をこめて。〜】で詳しく書かれています。
なんで涙が出たのか?正確なところは、自分でもよく分かりません。
自分がゲイであるからこそ「普通じゃない(とされる)」人の心を理解できる。
病気だったり、子供を授かれない女性たちという「普通じゃない(とされる)」人に寄り添える。
「堀江さんだからこそ書けること」というのが確実にあって、
でもそれが理由で「書けない」という現実もあって、
二つのことを同時に理解して、切なくて、涙が出たのかなと思っています。
その場はそれで解散し、「本は書けない」ということで別れました。
本は読者のために書かれるもの
その後、帰宅してからもずっと堀江さんのこと、堀江さんが書く本のことを考えていました。
「この人が本を書いたら、悩んでいるたくさんの人が救われるんじゃないかな。」
「でも・・・無理だよなぁ。」
「本という不特定多数が読む媒体で『同性愛者であることを宣言しろ』なんて、出版プロデューサーとか本とかそういうものの許される範囲を超えてるよなぁ。」
と、書いてほしい気持ちと、無茶だろうそれはという気持ちとの板挟みになっていました。
でも、ここで僕が引いてしまったら、彼は永遠に本を書かないかもしれない。そしたら何万、何十万という救われるはずだった読者がその可能性を失うかもしれない。
僕が引いてしまうことは出版業界全体の損失、ひいては日本社会の損失になるんじゃないか・・・?くらいに感じました。(本気で)
日本であなた以上に、この本を書く資格のある人はいないと思わせる
「やっぱり、この人の本を読みたい・・・!」
正確に言うと、この人の本を世に出して、読者が救われたサマを見たいと、強く思いました。
堀江さんの本であればすごく多くの悩んでいる人に、心からちゃんと届くんじゃないかと思ったからです。
いや、届くなんてのはそれこそ思い上がりかもしれませんが、少なくとも堀江さんの言葉なら受け取ってもらえると思ったのです。
日本中でこの人以上に、この本を書く資格のある人はいるだろうか?いやいない!くらいに思えたんですね。
最終的に企画書からゲイであることを外した理由
だから、出版プロデューサーとして「僕は堀江さんの本が読みたいです」「堀江さんのような人こそ本を書くべきです」というメッセージを送りました。
そして堀江さんから「ボクもあの後、なんで初対面の人に話したんだろうと考えていました」「ひょっとしたらそういうタイミングが来たのかもしれないと思います」とお返事をいただき、2年かけて本を作っていくことになります。
その後、企画を詰めていく中で「ゲイであること」は絶対必要ではないなと感じたので、かえって蛇足になるかと思い企画書から外しました。
それは堀江さんも書かれていますが、ご自身が「書こう」「社会に対してカミングアウトしてもいい」と思えたことで、それ以外のすべての文章からも彼の真意が伝わるようになったからだと思います。
それが、20万部まで皆さんに育てていただいた「血流がすべて解決する」の著者面談で聞いて見て考えたことです。
この記事があなたのお役に立てば幸いです。