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岸田さんの本作りのココがすごい!
西浦孝次(以下西浦)「僕が『岸田さんに編集してもらえてよかった~』と最初に思ったのが、これ見た瞬間でした。『なぞらされるだけの人生に終止符を』。超良かった。」
西浦「ラフいただいたときに、最初の16ページで、ここまで全部書いてあって、画像とかも入っていて、本屋さんで見かけたときに『今での文字本と違う』って印象を受けると感じて。
普通の文字の本と違って、ぐいぐい来るんですよこの本。『手本なぞるだけってかっこ悪いよね』と、今まで『ペン字練習帳』に挫折してきた人の記憶を思い出させるんです。
そして『なぞる』を人生とかけてるから、メッセージ性も深くて。
これが『なぞるだけではうまくなりません』だと、メッセージとして普通なんですよね。
違和感がないというか。だからこれ見た瞬間『あぁキた!良かった!』と思いました。」
岸田健児(以下岸田)「じゃあもう、これタイトルに変えます(笑)」
―――まさかのキャッチコピーからタイトルへ(笑)
岸田「この辺は確かに、物語性を大事にしている自分のあらわれなのかもしれませんね。」
西浦「あとここ、すごいと思いましたね。こういう仕掛けを用意するのが、岸田さんらしいというか。
読者にノウハウを印象付けるために『直線はすごい』と書いてくださいという。あなたの字、こんな簡単なことで変化したでしょうと。
ここは本当にすごい。普通の編集者にお願いしたら、たぶんこうはできんだろうなぁと思うんですよ。
実用書をただ真面目に作る人だとこうはならない。」
岸田「ありがてぇ。気持ちいいなぁ今日。」
西浦「僕と対談すると、みんな気持ちいいと言うんです(笑)」
岸田「うん。気持ちいいなぁ。」
大事なのはコンセプト固め
岸田「あとなんだろうなぁ…あぁ、西浦さんの話はいっぱいできますよ。」
西浦「何か言ってくださいよ、僕のPRもしてください(笑)」
岸田「まず、企画書のクオリティが高い。
出版プロデューサーには、紹介するだけという人がめちゃくちゃ多いんですよ。『企画はお願いします!』みたいな。」
西浦「出版塾で何を教えているんでしょうね(笑)」
岸田「なんなんでしょうね、あれ。もう印税あげるのが憚られるくらい。紹介料を払うだけにしたいくらいですよ。
今回西浦さんにいただいたのは、『斜め線を捨てれば字は上手くなる』という企画だったんですよ。
その時点でコンセプトがはっきりしているし、何をやればいいのかわかる。あと、著者の特徴はこういうことですという部分もはっきり教えていただいたので。もう最初の打ち合わせで、一冊のイメージが出来上がるところまでいけたんですよね。
本は一冊の制作期間が長いのですが、ふわっとした企画だと一冊のイメージがわかないまま進めちゃうこともあって。
あの時は最初の打ち合わせの時点でこういう本になるなというのが浮かんだので、それはすごいなと思いました、企画書が。」
西浦「編集者から企画ほめられるのは嬉しいです、ありがとうございます。
僕、営業やってたじゃないですか、だから、編集者から企画をプレゼンされる側だったんですよ。
前職(学研の書籍マーケティング部)の珍しいところは、編集部で通った企画も営業部が最終的に企画の合否を判断するというもので、逆に言うと企画書の段階でアリかナシかを決めなくちゃいけないんですよね。
で、経験上、企画書の段階から、発売までタイトル案が変わらない企画はやっぱり売れたんですよ。」
岸田「なるほど。」
西浦「細かいところとか、表現はもちろん変わっていますけど、基本コンセプトがしっかり練られていて。
そのコンセプトが営業も編集もいいよねといったものは売れるんですよね。」
岸田「確かに。コンセプトは大事ですよね。」
西浦「大事ですよね。だから、コンセプトを作り込んでから編集さんへ提案するようにしています。
その上で、企画と著者のことを話して1〜2時間くらいで、雑談も交えながら一冊の本のイメージが湧いて来ると作れます。それが湧かない人にはたぶん持っていっちゃだめなんですよね、企画との相性がよくない編集さんだから。」
岸田「ピクサーの監督も言ってました。『何よりもコンセプトが大事で、コンセプトがないままチームで作ろうとすると、みんなブレっブレのものを出してくるから。指針にするコンセプトというのがとっても大事だよ』と。」
西浦「要は『この企画、何が面白いの?』というやつですよね。」
岸田「はい。一個のものを、斜め上に見たときと、横から見たときは全然意見が違うじゃないですか。
だからこそ、芯がしっかりしていると、横から見ても同じものを目指せるし、下から見ても同じものを目指せるみたいな感覚があります。
意外と人は言っていることと思っていることは違うみたいな話とかもありますよね。
でもコンセプトがしっかりしていると、みんな同じものを目指して、それに対して意見を言えるようなチームになるので大事だなと思います。」
西浦「確かに。僕はコンセプトは作れるんですよ。マーケティング発想からジャンプさせているので。
それに対してどんなタイトルをつけるかというのは、クリエイティブなんですよね。これが僕には無い。
チームの『誰が聞いてもわかるコンセプト』は作れるんだけど、それにインパクトを与えるタイトルが僕には浮かばないんですよね。
『自分はクリエイティビティがないよ』と言ったところはまさにそこです。
だから、『斜めを捨てれば字はうまくなる』というコンセプトを、『直線で書けば今すぐ字がうまくなる』というタイトルに変えてくれたのは岸田さんなわけです。
前に御社でベストセラーにしていただいた『血流がすべて解決する』も、『血を増やせば、心と身体の問題すべてが上手くいく』というコンセプトだったんですよ。」
岸田「あーなるほど。」
西浦「それを『血流が全て解決する』と、よりコンパクトかつ強いものにしてくれた。」
岸田「あれタイトルいいですよね~。」
西浦「いいですよね~。コンセプトの『血』という言葉に編集担当の黒川さんが『やっぱり血という表現は怖い』と。それで考えてくれた結果、あのタイトルになったんですよ。コンセプトは全く変わってないですものね。」
岸田「そうそう、内容は変わってないんですよね。」
西浦「血を増やしたら全部上手くいくという本だし、斜めの線を書くのやめたらきれいに見えるよという本なので、どっちもコンセプトが最後まで全然変わらない。
このコンセプトをより強くしてくれるというか、より尖らしてくれるのが、編集者のクリエイティビティかなと。
やっぱり僕、クリエイティビティなくて良かったと思うんですよね。」
岸田「(笑)」
西浦「変に六十点くらい取れるタイトル出せると編集者とケンカになるんです。」
岸田「そっかそっか。」
西浦「六十点って、けして悪くはないから。」
岸田「しかも自分のが好きだから。」
西浦「そうそうそう(笑)」
岸田「確かになぁ。西浦さんのその辺のバランスはすごかったです。本来編集者が舵取りなんですけど、二人いるみたいな感覚になれて。とっても心強かったです。
僕は何も言っていないのに、なんか僕が困ってそうだなというときにフォローしてくれるんですよ。合いの手とか。」
西浦「編集者が『言葉にしないけど考えていること』もうっすらわかるようになってきたので。
でもたぶん、著者はそこまでは読めないから。翻訳しないといけないんですよね。
著者は出版の専門家ではないので、それは当然のことだから、つなげ役としての役割は重要だと思っています。
そこはけっこう気を遣ってるところかなぁ。」
岸田「そうそう、ほんとはそれ今聞かれたくないことなんだよね、ということもやっぱりあって。
この段階ではそこまでまだ考えは及びません、みたいな。でもやっぱりそれを説明しなくてはいけないじゃないですか。
それを言ってくださったり、というのはありましたね。」
西浦「そこ分かってもらえるの嬉しいですね。自分がチームにいる意味はなんなのか?編集者の仕事を代行してしまうとよくないし、意味ないからね。
『じゃあお前やればいいじゃん』という話なので、組む意味がなくなっちゃう。座組(ざぐみ)の話ですよね。」
プロデューサーの仕事は「座組」
西浦「座組をすることが仕事の大きな柱です。この企画はどの出版社の〇〇編集者さんだったら何点の本になるのか?を考えて一番いい座組を組む。そして、実際にどんどん100点、あるいはそれ以上のものにしていってもらうのが編集者さんのお仕事だという考え方です。
それで、僕はその座組をさらに、本だけじゃなくて、本が出た後の著者活動に広げていくのも仕事だと考えるようになりました。
成功とか、著者のビジネス、売上アップというものじゃなくて、著者が目指している到達点があるじゃないですか、そこへの仕組みづくりですね。
例えば今回の『直線で書けば今すぐ字がうまくなる』の著者、侑季先生は“コミュニケーションを促進させたい”という気持ちが彼女の中にあるんです。」
岸田「うん、確かに。」
西浦「彼女は以前、しゃべるのが苦手だから、書くことでなんとかできればと思ってた時期があったそうなんです。でも自分の字が汚くて、お礼状を書くのがすごく嫌だった。
だから、コミュニケーションが苦手なひとに『汚い字をちょっとした意識で改善させ、はがきを出すことでコミュニケーションへの苦手意識を解決したい」と。
それが上手くいくようにするにはどんな企画にすればいいかなとか、どんな印象が残る本にすればいいのかなとか、そういうことも考えてコンセプト立ててはいるんですよ」
―――ありがとうございました。
カフェの話
今回、取材の時にお邪魔しましたカフェは高田馬場駅から徒歩約3分程度の「カフェ コットンクラブ」さんです!
店内は非常に開放的で活気があり、内装もとてもおしゃれで良い雰囲気でした。
私たちがいたのは一階でしたが、二階に上がるとまた一階とは違った雰囲気で、夜になるととてもムーディーな感じでした。ぜひみなさま一度訪れてみてはいかがでしょうか?
ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございました!
まだまだ未熟者のため、読みづらい部分も多くあったと思いますが、ご容赦ください。
私はこれから就活が本格化してしまうため、今回の対談記事でインターン生としてやらせていただきました学生出版プロデューサーは卒業です。
大学でご縁があり、学生出版プロデューサーとして企画を立てたり、取材をして、記事を書いて、編集してと、大変貴重な経験を約一年間させていただきました。この経験を大切にこれからも頑張っていきたいと思います!
約一年間、けして多くの記事を作ったわけではありませんが、私の記事を読んでくださった読者の皆様ありがとうございました!
またどこかでお会いできる機会がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。
ライター・編集・写真:竹田