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世界観=本の個性
岸田健児さん(以下岸田)
「書店のビジネス書の棚に行くと、余白をいっぱい取って、タイトルがドン!と大きく載ってるカバーの本がいっぱいありますよね。テーマだけを伝えるみたいな。
かたや文芸書の棚に行くと、『この本ってどんな本なのかな』というのが装丁を見ただけでふわっと入ってくるじゃないですか。
『たぶん人が死ぬ話なんだな』とか、『たぶん妖怪の話なんだな』とか、『たぶん恋愛系だな』とか、一瞬でわかる。
それを、スピリチュアル・ビジネス・自己啓発の本はあまりやっていないなと思ったんですよ。」
西浦孝次(以下西浦)「文字情報しか出てないから、テイストまでは伝わってないということ?」
岸田「テイストと、その本の個性があまりないなと思うんですよ、ビジネス書の棚とかに行くと。
例えば真っ白なカバーであれば、どんなタイトルの本だって成立するじゃないですか。
それは嫌だなと思ったんです。」
西浦「なるほど。」
岸田「例えば『かみさまは小学5年生』の写真に、『一年間で一億儲ける方法』っていうタイトルはおかしいじゃないですか。でも真っ白なカバーであれば、そのタイトルでも成立するんですよ。
僕はそれは嫌だから、『このタイトルであればこのカバーしかないよね』というところを決め打ちしたかったんですよね。」
西浦「『他のタイトルが入ったら絶対違和感あるよね』となるくらい、この本に合うカバーにしたいと。」
岸田「それくらい個性を作りたい。それがこの本にとっての世界観になるはずという仮説というか、それくらい作り込みたいなというか。」
西浦「その世界観というのは、本の中のレイアウトとか、イラストを使うのか使わないのかとか、そういったことにも関係してくるんじゃないですか?」
岸田「ありますあります。例えば、ここ特にそうですね。(本を指さす)
これ、あえて残してるんですよ見づらいところ。消した跡とか、間違えた跡とか、こういうゴミとか。
他の編集さんはおそらく消すと思うんですよ、普通のルールだったら見づらいから。」
西浦「もうちょっと読める字でご本人に書いてもらえないかな…みたいな(笑)。」
岸田「そうですそうです。あと誤字とかもあったんですけれど、それも書き直さなかったんですよね。
その方が小学5年生っぽいからというのも、ある意味世界観を作る一個の理由かな。説得力によって感情移入できるかどうかみたいな話です。」
西浦「じゃあ本の世界に入り込ませるってこと?」
岸田「そうですそうです。
この本の作りでいうと、編集者がストーリーテラーとして語る前振りがあって、すみれちゃんの言葉のパートに入っていきますよね。
そのあと、実は総扉といって、この本ではそこが見開きになっているんですよ。これも普通の本だとやらないことで。
普通の本だと割くのは1ページだけなんですよね。でも、ここが見開きの総扉であることで『映画が始まる感』がするという狙いです。
あとこれはジブリっぽさを…」
西浦「たしかにジブリっぽい~!
僕この本読んで、映画『もののけ姫』のオープニングを思い出しましたもん。」
岸田「ジブリっぽくしているんですよ。
そういう狙いはやっていますね。映画っぽい作りみたいな。
ここは物語感というところなのかな。」
西浦「小説じゃないのにストーリーを入れ込んでる!
『ストーリーとして作る』ということかぁ…変なことするなぁ。
ってことですよね?(笑)」
岸田「そうですね、変なことしてると思いますこの本は。」
西浦「ストーリーじゃないものをストーリー仕立てにしていたりするし、本というものを映画にしようとしているから変に見える。
でもそれが違和感とか、オリジナリティとして出てくるということですね」
岸田「編集者のルールみたいなことをちゃんとしている人からみると、ぐっちゃぐちゃなんですよ(笑)
台割とか、構成とか。でも別にそれがなんだ!!という話なんで。」
西浦「面白いなぁ。
やはり、その面白いチャレンジの成果として売れたと思いますか?
この本、何万部売れてるんでしたっけ?」
岸田「いま35万部です。」
西浦「35万部…冷静に考えると、とんでもない数字ですね。
そこまで売れたのはなぜだと思います?」
岸田「売れた理由はこの世界観作りも理由の一つではあると思っているんですけれど、やっぱり『泣けた』という声が最大の要因かと思います。
そしてその原体験になっているのがこの本です。(資料を見る)」
西浦「あぁ、ミリオンセラーになってる『鏡の法則』!」
岸田「そうそう、『鏡の法則』を大学の時に父親からオススメされたんですけど。
僕の父親、全くスピリチュアルとか興味ないんですよ。むしろ本も読まないぐらい。
当時から僕はちょっとスピリチュアルを知っていたので、僕が読むと『鏡の法則』は超スピリチュアルなんですよ。
『あなたの見ている世界はあなた自身を映し出てる』みたいな話なので、すごいスピリチュアルっぽいんですけど。
それなのに父親がですね『これめっちゃ泣けたで』って言って僕に紹介してきたんですよね、このどスピリチュアルな本を。僕驚いちゃって。
それが結構今回の原体験になっていて、泣ける口コミを作ったら売れるなと思ったんですよ。」
西浦「だから、読者が必ずしもこの本をスピリチュアルだという認識にならないんですね。」
岸田「まさに今これエッセイ棚で売れていて。
スピリチュアルでももちろん売れているんですけれど、エッセイの棚に置いてる書店さんも多いんです。」
西浦「そうか、泣ける本だとこの棚でも違和感ない。」
岸田「実際に編集部に届く感想も『すごい泣けた』とか、『子供と一緒にいたのに涙がこぼれちゃいました』とか、そんな感想がすごくあって。
ここまでベストセラーになっているのは、その口コミの力かなとは思っていますけどね。」
西浦「『泣ける』というのを…」
岸田「『泣ける』というのを作ることは、ひとつのビジネスなんだと思います。」
「泣ける」の型
西浦「『泣ける』要素をどうやって作っていったんですか?」
岸田「映画で研究したんですよ。おそらく無限にあるんですけれど。」
西浦「泣ける要素は、無限。」
岸田「そう。ただ大きく見ると僕の中で見つけた六つの型というのがありまして。
一つ目が『ありがとう泣き』。これは言ってほしいことを言ってもらえた安心感ですね。」
一の型:ありがとう泣き
西浦「『あなたのことが大切だ』と言ってもらえたとか?」
岸田「そうそうそう。例えば、全然会話がなかった夫婦がいて、でも何かをきっかけに再び心を通わせて、何十年かぶりに『愛してる』と言われたみたいな。
それで、言ってほしいことを言ってもらえた安心感というのは、スピリチュアルの分野でも割と同じです。
『大丈夫だよ』とか、そういうことを言ってもらえた安心感。」
西浦「なるほど、そうですね!」
二の型:さよなら泣き
岸田「二つ目は『さよなら泣き』で、大切なものを失うとか。これはもう結構ありますよね。大好きな人が病気で亡くなっちゃうとか。」
西浦「うん、さっきの『君の膵臓を食べたい』とかそうですよね。」
岸田「そうですね。あとペットが亡くなっちゃうとか。やっぱりあの瞬間は泣きますよね。
三の型:おめでとう泣き
そして、三個目は「おめでとう泣き」で、これはようやく願いが叶った時としているんですけれど。駅伝がまさにそうです。」
西浦「あー、駅伝!」
岸田「はい。青山学院大学が全然勝てなかったチームだったのに、急に勝てるようになって、さらに優勝までしちゃった。それに感情移入してみんなが泣くという。」
西浦「そうか。」
四の型:無事で何より泣き
岸田「四つ目は『無事で何より泣き』。これは何で見つけたかというと、娘が誘拐されちゃって、『見つからない、見つからない』となるんですが、何事もなく救出されたみたいな映画を見た時に見つけました。
娘が無事に戻ってきた瞬間にやっぱり登場人物の親が泣くし、観ている人も泣くみたいな。」
西浦「確かに。なぜか誘拐されるのはちっちゃい子供か娘ですよね。そこそこ強い男の子は誘拐されないですもんね(笑)」
岸田「そうですね(笑)
そして、残りの二つは結構制作側が意図的にできるものかなと思っていて。
五の型:主人公泣き
五つ目は『主人公泣き』。
そもそも主人公を泣かせちゃう。
それが目印になって『あ、ここ泣くポイントなのね』みたいな感じ。
制作者が「ここで泣いてほしい」というメッセージをこの型によって演出するのもアリだなと思っています。」
西浦「『僕のヒーローアカデミア』がまさに『主人公泣き』で泣きました。」
岸田「あーーーー!あれ泣けるやつなんだ。」
西浦「最近読み始めたんですけど。もう一巻から『主人公泣き』投入でしたよ。」
岸田「でも泣くポイントは(他の型と)一緒なんですよね。
主人公が泣く瞬間はやっぱり作者が意図的にカタルシスを起こしているんですよ。『ここで泣いてほしい』というメッセージで。」
六の型:先入観泣き
そして最後は『先入観泣き』。
これはより制作者寄りなんですけど、もうコピーで『泣けます!』と言ってしまう。
『コーヒーは冷めないうちに』というサンマーク出版の本も『四回泣けます』と書いてあるんですよ。
もうその時点で泣きたい人は見ますし。」
西浦「『泣きに行く』わけですもんね。」
岸田「そう、泣きにいくので。そういう先入観を作り込んじゃう。」
西浦「全然違うところで行くと、吉本新喜劇はやっぱり泣きじゃなくて、笑いにいきますもんね。となるとつくり込むべき先入観も違う。」
岸田「そうですね、笑いにいく。」
西浦「読者は潜在的に目的をもって行動している。そういうことでしょうね。」
結婚式と駅伝が泣ける理由
岸田「という六つの型が見つかったので、今回はこの六つの中からどれを選ぼうかなと思ったときに、一つ気づいたことがあります。
娘の結婚式で泣く親父はすげぇいろんな感情が混じっているなと。
まず、娘が巣立つ『さよなら泣き』。
でも、娘が結婚しておめでとうの『おめでとう泣き』もある。
そして、『お父さんありがとう』と言ってくれて、言ってほしいことを言ってもらえた安心感の『ありがとう泣き』。
さらに、ここまでよく育ってくれたの『無事で何より泣き』。
なおかつ娘が泣いている『主人公泣き』に、結婚式は『泣ける』といわれている『先入観泣き』。
あ、すげえ全部混じってると思って。
これは混じれば混じるほど強度が増すと思ったんですよね。」
西浦「たしかに!泣きの絨毯爆撃じゃないですか!
本当に結婚式って『泣き』の構成力高いですね。
例えば人によっては“『さよなら泣き』が本当につらいから泣けない”という人もいるじゃないですか。
けれど、結婚式にはいろんな種類の泣きが入ってるので、そのどれかでは・・・」
西浦&岸田「泣ける。」
西浦「一回泣いちゃえば、あとはもういろんな泣きを足せばいいだけだから(笑)」
岸田「そうそう!そうなんですよ。
だから型を掛け算していけば、泣ける強度が増していくなと思ったんですよ。」
西浦「泣きの強度か!。先ほどは『本の強度』の話がでましたが、二つ目の強度ですね。
泣きの強度は増していく。」
岸田「だから掛け算すればいいやと思ったんです。
その上で、掛け算を意識して、言ってほしいことを言ってもらえたというスピリチュアルの『ありがとう泣き』と、『先入観泣き』を意図して作ろうということで、最初の編集コンセプトを固めています。」
西浦「あ、そういえば、駅伝もいっぱいありますね。
『主人公泣き』も当然はいってるし。
負けたチームの『さよなら泣き』、勝ったチームの『おめでとう泣き』。
あと正直『先入観泣き』もありますよね(笑)」
岸田「ありますね~(笑)」
西浦「だってもう毎年やってるし。」
岸田「泣けると言われてるし。」
西浦「『無事で何より泣き』とかも…」
岸田「細かいことを言うとあるんでしょうね。怪我せずに走り切ったとか。」
西浦「たぶん他にもあると思うんだけど。」
岸田「全然あります!たぶん、無限にあると思います、型で探していくと。
とにかく、「泣ける」というのを意識してやるのと、無作為に作るのでは全然違うと思うので、これを最初にやっておくというのは大事かなと思います。」
西浦「すごいな~よくそんな考え方で作れるな~……天才ですね。」
岸田「え、まあ。(笑)」
西浦「たぶん僕、全然わかってない(笑)」
岸田「いろんな出版社から『なんで売れてるんですか?』って聞かれるんですよ。もうめちゃくちゃ聞かれました。」
西浦「うん、でしょうね。僕も知りたかったからこのインタビュー企画したもの。」
岸田「もちろん僕の狙いはあるんですけど『かみさまの力です』と答えました。ここまで説明しないとダメなので(笑)」
西浦「あーそりゃそうですよね。
ここまで聞くのにもう45分くらい経ってますものね。」
岸田「そうそうそうなんですよ。まぁ、というので『泣ける』というのを売りにしましたというお話しでした。」
西浦「なるほど。まず
- 胎内記憶がある子供が著者の本だったら今までにないので強い というベースがあって、
- その上で『泣ける』という方向性があった。
で、すみれちゃんと出会ってここまできたということですよね。」
岸田「そういうことですね。」
西浦「すごいなぁ。」
岸田「だからその二つじゃないですか、売れた理由って言ったらやっぱり。
あとはカバーか。その三つじゃないですかね。」
西浦「カバーか。なるほどね。」
※ここでのカバーは一般的には「表紙」と呼ばれる部分を指します。正式名称がカバー。
表紙の「さりげない違和感」で読者を掴む
西浦「このカバー、なんか気になりますよね。違和感があるというか。」
岸田「はい。いい違和感。」
西浦「いい違和感を出すには、何が大事なんですか?」
岸田「今回のカバーをひとことで言うと、“一見立って見えるけど、よく見ると空中浮遊している”という部分ですね。」
西浦「え、どういうこと?」
岸田「まず、書店にはめちゃくちゃ本があるじゃないですか。
一瞬で、その本と目が合う瞬間にガツンと心をつかまなくてはいけない。
手に取らせなくてはいけない。
そうなると、例えば白Tの中に白T混ぜても目立たないじゃないですか。
やっぱり白Tの中に赤いTシャツとか混ぜてこそ目立つと思うし、そうするべきだと思っていて。
そうするための“違和感”が大事だと思っているんですね。」
西浦「白Tの中に赤Tを混ぜる(笑)」
岸田「例えがへタですいません(笑)
とはいえ、人は得体のしれないものとか怪しいものは手に取らないじゃないですか。
やっぱり、おいしそうとか面白そうが大事で。
だから違和感のつくりすぎはNG。その辺の『違和感のバランス』はすごい大事だと思っているんですよね。
そのうえで今回は、あからさまな空中浮遊じゃなくて、気づかない人がほとんどくらいの程度にしたんです。
この気づかない人がほとんどというのが大事で。
そのおかげで不思議な写真になってるんです。」
西浦「確かに、地面に立って、ランドセルしょって、っていう小学生の標準的な立ち姿とは、ちょっと違う。」
岸田「これ1500枚撮ったんですよ。」
西浦「1500枚?!」
岸田「1500枚分の1なんですよ。
これ何をこだわったかというと、まず、髪のなびきです。このひと束。
それが撮れたのが唯一この写真なんです。
立っているのに、なぜか髪がなびいているという違和感。
立っているのに、なぜかマカロンのキーホルダーが浮いているという違和感。
立っているのに、なぜか服がなびいているという違和感。
立っているのに、なぜか地面の影と足の間にスペースがあるという違和感。
この違和感です。」
西浦「え、もうちょっと岸田さん怖いんだけど!(笑)何考えて本作ってんの!?すごすぎる!
たしかにこれはほとんどの人が気にもとめないレベルの違和感ですね。。。
あ、でもよく見ると足の曲がり方も、普通にジャンプしている曲がり方じゃないですね。」
岸田「そうです。ジャンプさせるとただの小学生に変わるので。
この“膝を曲げない”ということが大事。」
西浦「なるほど…意識のレベルでは分からないけど、動物的なレベルで『なんか変だな』という違和感を感じるということですね。」
岸田「ほんのり気持ち悪いと感じられること。いい意味で。」
西浦「それがいい違和感の正体ですね。
明らかに『おかしい生き物だこいつ』というものには嫌悪感を抱くけど、『よく知ってる小学生となんかちょっと違うぞ』というのがポイントだと。」
岸田「そういうことですね。
明らかにボタン掛け違えてたりしたらおかしいぞってなるじゃないですか。
それは『変な人だな』と感じるだけだと思うんですけど。
さりげなくスカーフ巻いてるとか、そういうおしゃれは結構ポイント高いじゃないですか。それと一緒。」
西浦「さりげないおしゃれみたいに言いましたね(笑)違和感のこと。」
岸田「そうそう、さりげない違和感。だから一瞬気づかないくらいがちょうどよくて。
人はそれに気づけたアハ体験みたいなのがあると思うんですよ。『私だけ気づけた!』という。
有名すぎて例に出すのもはばかられるんですが、これもそうです。
『心を整える。』」
岸田「これも実は、長谷部さんが寝ている写真を縦に使っている、という違和感。
これどうやって撮ったんだろうって一瞬思うんですよ。でもこれは一瞬見ただけじゃわからない。
言われて気づくし、言われたら気づけるということはやっぱり変なんですよ。」
西浦「あと、ビリギャルのカバーはすごいインパクトありましたもんね。」
岸田「あれはもう明らかにおかしいですよね、買ってくれるはずの読者を睨んでる。」
西浦「でもちょっと泣きそうな表情なんですよね。」
岸田「あー。それもあるかもしれないですね。」
西浦「これはすごい目を奪われて。
『あぁ売れるんだろうな』と直感的に思いましたね。」
岸田「初速出た時点で勝ちですよね。」
西浦「勝ちですね~。」
※初速が出る・・・発売直後から売れること。初速は発売から7日間の売れ行きを指す。
岸田「もう広がってるだろうなぁという感じがする。
あとこの書籍は文字を切る場所がおかしいですよね、『嫌、われる、勇気』。」
西浦「ふつう『嫌われる』まで一行でいいですもんね。」
岸田「そうなんです。全部さりげないんです。
こういう違和感で作ってるカバーは結構いっぱいあるんですよね、調べると。」
西浦「売れた本の中に多いという感じですか?」
岸田「はい。なんでそのライティングで撮ったん?というものもあって。」
西浦「どの本のことですか?」
岸田「『憂鬱じゃなければ仕事じゃない』です。」
※単行本版のこと。文庫と電子書籍版では写真を使用していません。
学生時代にボロクソ言われた話
そういうのはもう持って生まれちゃってるのかなぁ?
それともどっかで身についたのかね。昔からそんなタイプでしたか?学生時代とか。
僕は学生のころに、けっこう明確な『自分のブレイクスルーの瞬間』があったタイプなんですが。」
岸田「お!いつですか?」
西浦「インターンシップです。二十歳の時。」
岸田「へぇーーー!え、誰かと出会ったんですか?」
西浦「はい。二十歳の時に広告プロダクションのインターンシップを受けて。
インターンといってもプロのコピーライターのもとで毎日、朝九時から夕方五時まで、ひたすらコピーを書き続けるというもので。
去年の宣伝会議賞のお題をひたすら考え続けてるんです。それ以外やらせてもらえないんですよ、雑務すらも。
もう机に向かって、ひたすら書くしかない。
でも全然良いコピーが書けないんですね。インパクトもなければ、面白くもないし。
それっぽい、キャッチコピーっぽい雰囲気の文章を書いているだけだったんですよ僕は。」
岸田「あー、『甘くておいしい』とか言っちゃうみたいな。」
西浦「そう、商品の説明してるだけじゃんみたいな。
例えば、『恋人たちの〇〇』って言葉を使ったときに『なんでここは恋人にしたのか』とか、その理由が自分の中に何もない。
なんとなく雰囲気で書いちゃってるわけなんですよ。
それで自分の中に響く言葉がないことに気づいて。
コピーライターの人に『全然面白くない、才能が感じられない。本当にやる気あるのか。』と、怒られて。
めちゃくちゃ傷ついたんです。
で…『ぶち〇してやろうか』と思っちゃったんです(笑)」
岸田「ぶち〇してやろう、って(笑)」
西浦「うん、すごい傷ついて。
その反動がなぜか怒りに(笑)」
岸田「あ、じゃあすごい気が強い学生だったんですね。」
西浦「うーん、失礼な話なんですけど、気強かったですね。」
岸田「学生でインターンシップの立場だと、それでも『やらせてもらってる』というマインドになりがちですけど。」
西浦「本来そういう謙虚な姿勢が大事なんでしょうね。
でもそのときは自分目線でしか世の中見れない小さい人間だったんで、
『なんでそんなこと言われなきゃいけないんだ』と思ったんです。
『何時間もかけて考えたものに対してなんて失礼なこと言うんだ』みたいに。
すごい独りよがりなんですけど。
それで腹が立って、たぶんそのときに僕、人生で初めて本気を出したんですよ。
今までやってきた『本気』なんか全部、子供だましだったくらいに。」
岸田「なるほどな~、本気を出した瞬間がそこなんですね。」
西浦「もうぶちギレながら、アドレナリン全開でキャッチコピーを書いたんです。
『このキャッチコピーであのおっさんを〇す』と思いながら(笑)
そしたら、ほんのちょっとだけ、本当にちょっとだけ面白いものが書けたんです。
自分でも今まで書いたものとはちょっと違うのがわかったし、おっさんもちょっと褒めてくれた。」
岸田「あ、じゃあおっさんはちゃんと本音を言っていたんですね。」
西浦「そう、僕がそのキャッチコピーっ『ぽい』ものから一歩も出られていないことをわかってらしたんですよ。
それはつまり、その方に言われた『本気を出してない』というのがやっぱり正解なんです。
でもそんなことなかなか言われないでしょ?
二十年ぐらいしか生きてきてないのに。」
岸田「本気を出してないは言われないですね。」
西浦「『全然面白くない、才能が感じられない。やる気あんのか』なんてもう全否定(笑)
部活でももう少し優しいというか、プレーはダメでも態度や、やる気は肯定されてきた。
なんだかんだ過程を評価されて生きてたんですよね。
つまり『結果だけで評価されてる人=プロ』の感覚に触れたが初めてだったんです。
それまでの自分は指導対象の『生徒』かサービス対象の『お客さん』だったから。
その結果、ひどい話なんですが、〇すと思って。。。もう本当に〇す!と思いましたからね(笑)」
岸田「よっぽど、強烈だったんでしょうね」
西浦「はい。でもそれ以降、企画を考えるときに一歩二歩、踏み込むことができるようになったんです。
今でも覚えてるのは、歯磨き粉かホワイトニングだかのキャッチコピーで
『私は笑わなければ美人』というのを考えたんですよね。」
岸田「おーーーすごいすごいすごい!」
西浦「20歳の素人にしてはいいでしょ?
一日100案以上考えて、それを1か月間毎日やり続けた結果として少し認めてもらえた。
で、一番よかったキャッチコピーだってことで、写真をつけてポスターにしてくださったんです。
そのポスターがインターンの卒業証書みたいなものなんですけど。
そこでも、ひと悶着あって(笑)」
岸田「ふむふむ?」
西浦「ポスターはインターン先の若手デザイナーさんが『このキャッチコピーに画像はめてポスターにしてやれ』と言われて、作ってくれたんです。
出来上がったポスターは、ふわっとした雰囲気の可愛い女の子が大きく映っていて、キャッチコピーがおしゃれな配置に並んでました。
僕は十分嬉しかったんですが、それで逆にそのデザイナーさんが怒られてしまって。」
岸田「え、どうして?」
西浦『このキャッチコピーでこの画像はおかしいだろ。こんなかわいい子を出してどうする。半笑いで、そこそこかわいい子が不細工に映ってる写真だろ。』って言われてて。
『あ、その理由はすごく納得できるし、プロでもちゃんとやらないと怒られるんだ』と思って。」
岸田「その先輩めっちゃいい先輩じゃないですか!ただ怒るだけじゃなかったから。
インターンシップの学生を舐めて、社会を教えてやろうとかじゃなくて、ちゃんとアドバイスして、ちゃんと向き合ってくれてた。」
西浦「そうなんです、意識高いだけのガキに『全然面白くないぞ、本気出せ』ってちゃんと言ってくれましたからね。
僕はそれで変わった自負がある。岸田さんにもそういうのあるんじゃないかなと。」
岸田「そうですね。僕は…学生時代、くっそつまらなかったんですよ」
……今回はここまで。
続きはまた次回!
岸田さんの学生時代の経験などをお届け!一体どんなお話が聞けるのでしょうか?
お楽しみに〜!!
ライター・編集・写真:竹田