本の売れ行きが好調で再販が決まると
「発売3日で増刷(ぞうさつ)です!」
「重版出来!じゅうはんしゅったい)おめでとうございます!」
といった嬉しいニュースが飛び込んできます。
でも、増刷(ぞうさつ)と重版(じゅうはん)、この言葉の正式な違いってご存知ですか?
目次
動画:「増刷」と「重版」の違い
本記事の要約を5分程度の動画にまとめています。
増刷(ぞうさつ)と重版(じゅうはん)の正式な違いや、改訂・復刻との比較についてを動画で知りたい方は下記をご覧ください。
増刷と重版の違いは「表記」「内容」にある
増刷と重版、この二つの言葉は厳密には全く別のことを指します。
どちらも本を再販することを指すのですが、内容に変更があるかないかで変わるんですね。
さらに呼び方だけではなく、本の奥付にこの刷と版を記載する箇所があり、そこで判断できるようになっています。
増刷と重版の詳しい解説をそれぞれに行いますね。
※奥付については ↓ の記事で詳しく解説しています。
増刷は以前印刷した内容で再販すること
増刷は本の内容を変えずに再販することです。
奥付では
初版第二刷 〇年〇月〇日 発行
というように表記されます。
1回目の増刷なら「二刷」、2回目なら「三刷」、3回目は「四刷」となります。(初版を一刷とする)
刷を増やすので「増刷」と言うんですね。
増刷では同じ内容のものをただ刷りなおすだけなので、人件費も、デザイン費も発生しません。
なので増刷を繰り返せば、どんどんその本の1冊あたり原価が下がり、利益率は上がります。
児童書のように、100回以上も増刷をかけてきたような超ロングセラーは、売れ行きも安定していることから「お金を刷っているようなもの」とさえ言われます。
結論としては、増刷は以前印刷した内容で再販することです。
重版は、内容を加筆・修正して再販すること
増刷とは違い、重版は「内容を変更」して再販することです。
例えば辞書は時代の変化に応じて、言葉を削ったり追加したりしています。
そういった「同じ本ですが内容を変更して再販しますよ」というのを「重版」という言うのです。
本は、もともと「版」と呼ばれる、原型があり、その原型からインクを紙に写して大量印刷する仕組みです。
再販のときに内容を変えたい場合、印刷の「もと」である「版」を作りなおすことになります。
「版を重ねる」ということで「重版」と呼ぶのですね。
この場合、版を再度作り直すことになるので、お金が発生します。
デザイン費等はかかりませんから新刊ほどの費用は発生していませんが、やはり原価が上がってしまいます。
ちなみに今はオンデマンド印刷のように版を作成しないものも多いので、厳密には版をつくない本もあります。
(版を作らない印刷をわかりやすく言うと、コピー機でスライド資料を印刷するようなもの)
重版の場合、奥付には
初版 第一刷 〇年〇月〇日発行
二版 第一刷 △年△月△日発行
と表記されます。版が重ねられ、二版となっていますね。
3回目なら三版、4回目で四版となります。
一方で、あまり区別されて使われていない
実は一番言いたかったことはこれ。
「出版の現場では、どっちもおんなじ意味で使ってるよ!」ということです。
印刷所さんに伝えるときは気を付けるべきですが、書店さんや営業内で共有するときはどっちでもOKですね。
重版だろうが増刷だろうが「再販する!」ということの方が意味合いとして重要だからです。
例えば出版用語で「重版出来(じゅうはんしゅったい)」という言葉があります。
ドラマ「重版出来!」で少し知られるようになった言葉ですが、これも本来は「増刷出来」と「重版出来」とを分けて言った方が正確ですよね。
実際のケースとしては、重版に比べて増刷の方が圧倒的に多いわけですが、作品のタイトルでもあるし、決めゼリフでもあるし。。。「重版出来!」って言った方が盛り上がるわけです。
細かいことを突っ込んで水差すのもなんですしね。
これはフィクションだけのことではなく、現場でも「増刷」「重版」を同じ意味で使っています。
僕は「三刷です」「もう少しで増刷かかるかなー」と、たいてい「増刷」を使う派でしたが、
広告を出すときに「増刷出来」とか「三刷出来」とかって書くのは違和感あるので「重版出来」と書いたりしてました。
本当にそれくらいの感覚で両方使ってたのです。
ちなみにドラマ「重版出来!」では重版決定のときに「重版出来です!」って営業さんが編集部に叫びながら駆け込んだり、「イヨー!パン!」って手を叩いてお祝いするシーンがあります。
でも僕は一度もそんなシーン見たことないですし、駆け込んで「重版出来です!」と言ったこともありません(笑)
まあ、放送上の演出ですね。
増刷が喜ばしいことに変わりはありませんが、増刷の決定と連絡はもっと実務的に、僕(販売担当)から製作部に冊数を連絡。
製作部の担当者から、編集担当者に重版の連絡が行って、そこで誤字修正などのあるなしを確認。
って感じでした。
編集部には打ち合わせ中に「売れ行き良いんで、増刷かかると思いますよ」というように事前に伝えています。
でも10万部を超えたときなどは、お祝いをしたり、金一封が出たりちゃんとセレモニーをするところも多いです。
ついでに豆知識的な小話を。
重版出来は「じゅうはんでき」と読むこともあります。
もちろん誤読ですが、こちらの方が意味が通りやすかったり、「出来(しゅったい)」に「出来上がる」という意味があることから「でき」でもいいかなと。
出版社によってはもう「でき」で統一しているところもあるとか。
どうやったら増刷や重版になるの?
さてどうやったら増刷や重版になるのでしょうか?
これは僕自身がかつて出版社のマーケティング部にいたため、まさに専門家です。
増刷の部数やタイミングなどの判断もしていました。
あんまり専門的なことを書くとこんがらがるので、なるべくシンプルに、でもちゃんとリアルに解説しますね。
増刷判断3つの要素
増刷は「これ売れそうだから1万部いこう!」って具合にノリで決まるわけではありません。
ちゃんと稟議書回して、上司や役員のハンコ貰って増刷かけるので、理屈が必要なのです。
増刷の理屈として重要なのが
- 実売数(POS)
- 在庫数
- 注文数
この3つです。
実売数(POS)とは、書店さんで実際に売れた冊数がわかるPOSデータです。
そのPOSデータをもとに、送品された本の何%が売れているのかをチェックします。
一般書の場合、だいたいですが、1週間で10%、2週間で20%、3週間で30%売れていれば増刷合格ラインにのります。
この2倍くらい売れていると「すぐ増刷してください!」って取次さんから言われるレベルです。
もちろんこの基準はジャンルによっても変わります。
コミックやアイドル写真集など「ファンが読者の大半を占める」本は最初の1週間で7~8割ほど売り切りたいところです。
在庫数とは出版社の倉庫にある在庫数のことです。
版元在庫(はんもとざいこ)と呼びます。
POS実売が良いと、書店さんの在庫が減りますので、版元在庫から出荷して補充します。
この版元在庫が「あと何日でなくなるか」を試算して、増刷のタイミングが決まります。
増刷にはたいてい3週間(急ぎで2週間)かかるため、3週間後には在庫がなくなる!という時までに増刷をかけねばなりません。
そして3つ目の要素
注文数とは書店さんからの注文のことです。
書店さんからの注文数が増えているのか、横ばいなのか、減っているのかで、判断が変わります。
在庫が切れそうだから増刷したのに、注文数が減ってしまって、結局その増刷分が出庫することなく不良在庫化する・・・
これはもう目も当てられないというか、最悪の増刷です。
こうならないように増刷時には注文数が伸びているとか、法人チェーンから大型の注文が入りそうだとか、そういった「出荷保証」のようなものが欲しいのが本音です。
これら3つの要素、実売数(POS)、在庫数、注文数をもとに増刷判断をします。
逆に言うとどれか一つでも欠けると増刷判断はためらわれます。
例えば売れ行きが良く、品薄で、でも注文が来ていないとき。
⇒売れていることに書店さんが気づいていない
⇒売れているけど同じようなテーマで、もっと激しく売れている本がある
などにより注目されていないから、注文も来ていないと予想されます。
注文が来ないと、増刷しても倉庫で眠ってしまうので増刷はできません。
この場合、注文書をFAXする、書店さんに営業に行くなど、注目してもらうために働きかけて受注を促進します。
増刷の仕組みをかなり詳しく、でもできるだけシンプルに解説しましたがいかがでしょうか?
どうすればもっと増刷がかかるのか?もっと知りたい人は、一度、下記の「出版セミナー」にご参加ください!
増刷と「改訂」や「復刻」との違い
増刷と重版は別の意味だけど、現場ではほとんど同じ扱いをされていることがわかりました。
では増刷と「改訂」や「復刻」とは何が違うのでしょうか?
ひとことで言うと
「改訂は内容を変えて、別の本にする」
「復刻は同じ内容だけど、別の本にする」
というものです。
重版は内容を変更しつつも同じ本でした。(言うまでもなく増刷は内容も同じなので同じ本)
本にはISBNコードという世界共通の管理コードがあるのですが、それが同じなのです。
※「本のジャンル・種類はいくつあるの?」の中のCコードの項目でもISBNについて触れているので併せてお読みください!
かたや内容を変える「改訂」と、基本的には内容そのまま再現の「復刻」は「別の本」として出版されます。
つまりISBNコードが別のものになるのです。
例えば法律の改正に合わせて、関連書籍を改定する場合。
本の内容に変更があるので「重版」か「改訂」になりますね。
この場合は「重版」ではなく「改訂」にします。
重版だと内容を変えても同じ本なので、古いバージョンの本と、重版後の新しいバージョンのものが市場に混在してしまいます。
読者はその本が「何版か」を確認して買わないと、古い法律の本を買うことになってしまいます。
これは読者にとって大変不親切ですしクレームの原因になりますから、たいてい「改訂版」を発行して古いバージョンのものは返品してもらい、改訂版とすべて差し替えてもらうようなイメージになります。
「復刻」版は絶版になっているものや、発行が古く、長らく在庫切れだった本の復刻を指します。
そのときにISBNコード上は、まったく別の本として、作り直します。
(同じ本として出す場合、それは純粋な増刷です)
場合によっては表現などを変更していたり、あえてそのまま復刻したりとケースバイケースです。
(差別用語などが含まれることもある)
表記やフォントも含め完全に同じ内容で復刻してもISBNが違えば「別の本」になります。
改訂は、内容も変更して別の本として出す。
復刻は、なるべく内容をそのままに、別の本として出す。
ということです。
まとめ
以上、「増刷」「重版」の違いから「改訂」「復刻」との違いまで見てみました。
内容を変えるかどうか、別の本とするかどうかの軸で、4パターンにわけられます。
より増刷の仕組みが気になった人は、ぜひ出版販促セミナーにお越しください。