本のだいたい最後のページに「奥付」と呼ばれるものがあるのをご存知でしょうか?
タイトルや著者名、発行所といった情報が掲載されています。
その本の増刷回数や発行日も書いてあるので、僕は出版社に入って「とりあえず奥付を見る」癖がつきました。
- 奥付には何の意味があるのか?
- 奥付にはどういったことが書かれているのか?
- なぜ奥付が書かれているのか?
などについて、この記事で整理してお伝えします。
読み終わるころには、奥付についての知識が一通り身につくと思います!
本記事の内容を5分程度の動画で解説しています ↓
目次
奥付とは出版物の「責任の所在」を示すためのもの
なぜ奥付が作成されるのか?それはその本の「責任の所在」を明確にするためです。
本の内容に不備があったり、乱丁落丁、本そのものに製本上の欠陥があり得ますよね。
そういった問い合わせ先はどこになるのか?
責任の存在を明記しているのです。
ですので奥付には、著者や出版社、印刷所に、編集者、デザイナーなど「誰が関わって作ったか」が掲載されています。
実際に内容についてのご意見や、製本上の不備についてのお問い合わせをいただくことがあるので、編集部と営業部の電話番号が記載されていることも多いです。
つまり、結論として奥付は、責任の所在を示すためにあるのです。
【奥付の歴史】江戸時代には規則・ルールがあった
実は海外の本にはほとんど奥付がなく、和書と中国や韓国の一部の本だけが「奥付」を採用しています。
ではこの「奥付」はどういった経緯で、日本国内に浸透していったのでしょうか?
これは時代を300年さかのぼって、江戸時代、享保7年(1722年)11月の話になります。
「大岡裁き」で有名な南町奉行所の大岡越前守忠相(おおおかえちぜんただすけ)が発した御触書の中に
「一 何書物ニよらす此以後新板之物、作者并板元之実名、奥書ニ為致可申候事」
という条項があります。
「どんな本でも、これ以後新たに出版するものは、作者ならびに版元(出版社)の実名を奥書きすること(奥付に書くこと)」ということですね。
これは主に、海賊版取り締まりの意味が大きく、版元や著者の権利を守る目的でつくられたと考えられています。
その後、明治26年(1893年)に出版法が制定され、
- 第7条「文書図画の発行者は其の氏名、住所及発行の年月日を其の文書図画の末尾に記載すへし」
- 第 8 条「文書図画の印刷者は其の氏名、住所及印刷の年月日を其の文書図画の末尾に記載し、住所と印刷所と同しからさるときは印刷所をも記載すへし(以下略)」と
発行者の氏名・住所、発行年月日、印刷所の名称・住所、印刷の年月日の記載がはっきりと義務付けられました。
この出版法により奥付が義務化されたわけですが、この法律は政府がいわゆる「検閲」を行い言論統制できるように制定されたものでした。
第二次世界大戦後に、日本国憲法第21条で「言論の自由」と「検閲の禁止」が定められ、出版法は廃止され、奥付の義務もなくなりましたが、今でも習慣として、ほとんどの出版物に奥付が作成されています。
有名な大岡越前がきっかけで誕生した「奥付」。現在は習慣ですが、戦前は義務付けられていたんですね。
【参考】
- 千代田区立図書館 浅岡邦雄氏(中京大学文学部教授)講演録 奥付―誰が何のために
- 一般社団法人日本出版協会 著作権Q&A 奥付に関すること
奥付に記載する7つのこと【出版業界の習慣】
奥付は義務ではなく、習慣なので「これが無くてはならない」という決まりはありません。
とはいえ「これがあれば問題ないだろう」という「奥付に記載する項目と内容」について解説していきますね。
本のタイトル
本の正式タイトルです。
今の本はサブタイトルやキャッチコピーでもアピールして、とにかく店頭でより目立たせるようデザインを組んでいます。時にはタイトルよりもそっちの方が大きいこともあるので、正式なタイトルを明記しましょう。
発行日(版・刷とその日付)
版(はん)とは書籍を印刷する元になるもの(≒原本)のこと。
わかりやすく言えば「バージョン」です。
初版は最初の版(バージョン)を指し、第二版は修正変更がされており、初版とは一部別物になります。
刷(すり・さつ)は印刷回数のことです。
「初版 第1刷」が売れ行き好調なら、増刷がかかり、「初刷 第2刷」が印刷されます。この1刷と2刷は同じものです。
が、今は版を組まずにデータで入稿することが多いですし、2刷で誤字脱字も直してしまっています。
※増刷についての記事は現在準備中です!
なお、珍しいケースですがサンクチュアリ出版では刷回数だけでなく、累計発行部数も表記されています。
発行日ですが、実際に印刷した日付ではありません。
流通のタイムラグもありますし、大きな地震や台風の影響で流通が滞ることもあります。
海外で印刷した場合、船の遅延でカバーが届かないなどのトラブルもあります。
ですので搬入日(印刷製本が完了して、取次へ出庫される日)から2週間後くらいに設定することが多いです。
ゲンを担いで搬入から2週間以内の大安や友引に設定することもあります。
著者
著者名です。グループ名や「〇〇研究会」でも大丈夫です。
昔(江戸時代)は実名でしたが今はペンネームでOKです。
発行者
その本の発行責任者名。たいていは出版社の社長とか、その編集部の担当役員の名前などが入ります。
本を発行する組織の「偉い人の名前」を書きましょう。
発行所
その本を発行している組織名。出版社の名前や、同人誌などの場合はサークル名が当てはまります。
もし発行と発売が別の場合(営業委託契約とか)は、発売元の会社名も書きましょう。
編集部・営業部の連絡先
問い合わせ先として電話番号と住所を載せるケースが多いです。
内容については編集部、乱丁落丁などは営業部の連絡先を書きます。
また、たいていの出版社が「万一、乱丁、落丁がございましたら、小社営業部までお送りください。お取替えさせていただきます。」と記載しています。(珍しいケースですがその記載がない本もあります)
内容に関しては電話番号を載せず「書面でお送りください」と住所だけ掲載している出版社もあります。
印刷・製本
その本を印刷・製本してくれた印刷会社さんと、製本会社さんの名前。
印刷所だけ掲載のケースも多いです。でも製本所さんも載せたほうが丁寧です。
奥付に記載しないほうが良いこと
逆に奥付に書かないほうがいい項目もあります。
定価
雑誌では定価を表記していますが、ほとんどの書籍は定価を奥付に書いていません。
いろいろ理由は考えられますが、ビジネスモデルの違いが原因でしょう。
雑誌はその号で売り切ってしまうビジネスモデルであり、毎週毎月最新号を販売します。
逆に書籍は同じ本をロングセラーで売っていきたいものです。
書籍は容易に価格の変更ができないからこそ、本体に記載せずカバーだけにとどめているのでしょう。
(後に価格改定するとしても、カバーのみ印刷し直せば中身そのままで販売できる)
検印
この本の発行を著作権者が認めていますよという印章。印税という言葉の由来にもなりました。
検印を見れば、著作権が著者にあるのか版元にあるのか(版元が買い取ってる場合、版元の検印が押されてる)がわかります。
ですが今は省略されることが多いので(手間だし)、省略してよいでしょう。
奥付の見本・テンプレート
奥付の見本として、僕がプロデュースした書籍の奥付を一つご紹介します。
タイトル、発行日などの他に、装丁や本文デザイン・DTP、イラストや僕(出版プロデューサー)も企画協力という形で入れてくださってます。
つまり製作にかかわった人の名前全部載せますパターンですね。
デザイナーさんや僕らプロデュースの人間は、奥付ではなく「前付」(本文の前、たいてい目次の最後)に掲載していただくことが多いです。
珍しいケースだったのでこちらをご紹介しました。
まとめ
奥付の意味や歴史を知ることは、思いがけず日本の出版の歴史を辿ることになりましたね。
かの有名な大岡越前からはじまり、第二次世界大戦を契機に「規則・ルール」から「習慣」として根付いていったと。
習慣なので「これがないと奥付ではない!」というものではありませんが、
責任の所在という意味があるので、関係者の名前や連絡先を入れつつ、本ごとに入れるべきかそうでないかを判断するのがよさそうです。
落丁についての記載がない出版社ありましたし。