※この記事は2017年4月21日に加筆・修正されました。
本を書きたい!と思った方なら、なんとなく「書きたい本」のイメージも持っていると思います。
しかし、「書きたい」気持ちは大事なのですが、それだけでは売れないし、そもそも企画も通りません。
どうして書きたいだけではダメなのか、どうすれば「伝わる企画になるのか?」解説したいと思います。
こんにちわ、ポッキーは通常より細いのを2本同時に食べるタイプの出版プロデューサー西浦です。
僕は会員制の出版グループコンサル「ベストセラーキャンプ(BSC)」というのを主宰しています。
BSCでは毎月会員の著者さんに企画のアドバイスをしたり、出版についての考え方をお話ししたりしています。それぞれ進捗状況や詰まっているところが違うので、課題やアドバイスも人によって違ってきます。ですが他の会員へのアドバイスで何かをつかんだり、会員同士のやりとりが新たな気付きを生むので、あえてグループコンサルという形を取っています。
目次
「書きたい」は大事だけど足りていない
入会したばかりの会員さんには「こういう企画にしましょう」という提案を行います。コンセプトを明確に決めるというより、ざっくり「方向性」を決める感じです。
そうやって企画の方向性を決めるときに「〇〇さんはそれでいいんですか?」とよく質問される会員さんがいました。その方はもう長くBSCに在籍してらっしゃって、すでに本も出されているんですが、他の方の企画アドバイスをしてくださるのを聞いて、毎回「さすがだなぁ」と思っていました。
なぜ彼が「〇〇さんはそれでいいんですか?」とよく質問していたかというと、本人が「書きたい」と思えるものでないと面白い本にはならないからです。出版経験のある人は「書きたい」ものでないと書けないことを知っているのです、すごく重要なことですが、僕自身は出版経験がないので、そのことを忘れてはいけないなと思うようになりました。会員さんから僕が学ぶことも多いのがBSCのいいところですね。でも「書きたい」だけでもダメなのが企画の難しく、面白いところです。
読者とその「棚」を見てない人は売れない
僕ら出版プロデューサーは、著者、出版社、読者、とたくさんの「お客さん」がいるのですが、その中でも「読者」を一番偉いお客さんとしています。読者がお金を出して買って、読んで、人に勧めてくれる本にしないと出版社にも著者にもお役に立てないからです。だから僕は毎回「どの棚に置くか」から逆算して企画を立てます。読者が何を「悩み」として、その棚に行くのか分かったうえで企画を立てないと、置くべき棚がない本(売り場で迷子になる)になったり、その棚を探しに来た読者が求めているものとズレた企画を作ったりしがちだからです。
これは何も僕らだけでなく、著者や編集者も気を付けなければならないことです。昔、出版社にいたころ後輩の編集者から「新刊のタイトルを考えたので、意見が欲しい」と言われました。タイトル案を見せてもらって『うーん言いにくいんだけど、これ「棚」見てきてないでしょ?』と彼に言ったことがあります。彼はバツがわるそうに『はい・・・』と言ってました。
棚を見ないで机の前で考えた企画は、すぐわかります。自分と著者の中の世界だけで完結しているので、根本的にズレていることが多いのです。作っている方はその本の何が良いかわかっているつもりなのですが、本の中身を知らない人間からすると「何がいいのかわからない」企画になりがちなんですね。そういう本はびっくりするくらい売れません。
だからと言って、読者に迎合しただけの「こういうの好きなんでしょ?」という本ではなかなか売れません。何より著者本人が「書くぞ!」という気にもなれないでしょう。「書きたい」気持ちが大事だというのはこういうことです。
「書きたい」は「コンフォートゾーンから出たくない」だけかもしれない
僕が大事にしているのは「書きたい」という主観に、読者目線の客観を足した「読みたい」という視点です。「書きたい」には「ラクしたい、コンフォートゾーンから出たくない」という潜在的な欲求があります。「書きたい」と思えるものは「書ける」範囲内のものだからです(批判されなそう、新たに参考データ集める手間をかけなくていい、時間がかからなそうなど、精神的な部分の話です)。
ある漫画家さんの話なのですが、すでに一生分くらいのお金を稼いでも新作を書き続ける理由を尋ねられて「読みたいものを描きたいから」とおっしゃったそうです。「描きたい」ものは「描ける画」の発想の中にしかないけど、「見たい、読みたい画」だと「描けるかどうか」は関係ないから、まず「見たい、読みたい気持ち」があったうえで「これどうやって描けばいいんだ?」を考えて研究することができるそうです。
この「一度、読者目線を入れる考え方」は非常に大切だと思います。完全な客観というのは存在しないので、完全な読者目線にはなれませんが、「読みたい」を意識することで「書きたい」だけの、読者を置いてけぼりにした企画からは脱出できると思っています。
著者の心の在りようが、本の売れ方に影響を及ぼす説
出版業界、特に著者たちの中でまことしやかに囁かれている噂があります。それが「著者の心の在りようが、本の売れ方に影響を与える」というものです。具体的には売れる本の著者は「売れる」と思っているし、売れない本の著者は「売れないかも」と思っているので、結果的に心の通りになってるのだよということです。特にスピリチュアル系や引き寄せ系の方が口にされる印象でしょうか。
こういう噂が流れる理由の一つは「なぜ売れるか、売れないか」の裏側がブラックボックスだからです。売れ行きと在庫状況を把握し、増刷や広告を決定する出版社(特に営業部)ではこういった考え方の人はほとんどいません。
ではまるっきり迷信で無視してよいのかというと、実はそうでもありません。
それは「心の在りようは、言葉や行動に影響を与え、言葉や行動は本の売れ方に影響を与えるから」です。
書きたいだけではダメなのは、伝えたいが抜けているから
口でどれだけお題目を並べても、本音の部分で「読者のため」と思っていない場合、「書くこと」ですべてエネルギーを使い切って、伝えることに力を注げません。そういう人は書きっぱなしで終わってしまういます。
また、「伝えよう」とは思っていても、途中で自分にブレーキをかける人もいます。伝える、広めるということは、自分のことも本のことも知らない人に何らかの方法でPRすることです。アウェイに顔を出すわけですから緊張しますし、ストレスにも感じるでしょう。それに、本が広まることで何か悪口を言われたり、攻撃されることもありえます。現実的には地味で、大変で、精神的にも肉体的にも疲れる作業です。日々、ブログを更新したり、講演会にゲスト出演したり、自分で集客して販売会をしたり・・・といった中で疲れが溜まっていきます。そしてどこかのタイミングで「もう良いかな」と通常運転に戻ってしまうのです。
こういったことが全くこたえない、心臓に毛が生えているような方も中にはいますが、そういった方を除けば、著者自身の「広めよう」「伝えよう」「オープンにしよう」など、心のありようが、本の中身、さらに売れ方にも影響を与えていると言えます。何かを隠している本は、それが透けて見えるし、広がるのが怖い、知っている人と一緒にいる方が楽しいしラクだと感じていると、告知活動にも熱が入らず結局広がらないようになるのです。
やはりこういった販売面から見ても「心から読者のために」と思って書けるかどうか、「読者の求めているものを提供したい」という想いがどれだけ強いかが大事になってくると思います。
企画は著者自身の心と向き合い、読者の悩みと向き合うこと
もちろん読者の求めているものが、著者の中にまったくなかったらどうあがいても書けません。特にビジネス書とか実用書は著者の経験や実績がないと、そもそも本にするような内容にならないからです。体感的には5年以上、できれば10年やってきたテーマがクオリティ的に望ましいです。
ただし「やったことない分野にチャレンジして書く」とか、「新規事業や最近ちょっと勉強したばかりのことを書け」ということでは絶対にないです。
この辺はプロデューサーの腕の見せ所なので、会話を通してうまく探って、
- 著者の中に経験値・実践知として溜まっているテーマで、
- かつ精神的な何かの殻が破けたらさらけ出せそうなもの
を探ります。
読者の心に刺さる本にするには、著者の心の中にある思いが伝わるように書かなければなりませんから、自分との対話が必要になります。本は「書くのが怖い」くらいのものでないと読者には刺さらないのです。
出版プロデューサーは企画と向き合っているようで、著者の心の葛藤と向き合う仕事だと感じます。どういう方法、経緯であれ自分の中の葛藤をクリアした人の本はなぜか売れます。それはやはり読者の心に刺さるからでしょうね。その時にその本がちゃんと読者の「読みたい」テーマの中に着地できるように、方向性を決めておくのが出版プロデューサーの大事な仕事です。
優しくしてくれるとか、耳障りの良い言葉を言ってくれるだけでなく、しっかり向き合って、時には厳しい言葉もかけてくれる、そんな出版プロデューサーを探してください。