出版社に企画書を提案して、編集者から「文庫でどうでしょう?」と言われたら、あなたはなんて答えますか?
また、かつて出版した本が「文庫化しませんか?」と声をかけられることもありますね。
そんな時、文庫のメリットやデメリットを正しく判断できているでしょうか。
この記事では文庫本のサイズや発売までの流れ(パターン)、単行本との違い、著者として知っておきたいメリットデメリットについて解説します。
またコミックスの文庫版についても触れますので、読後には「文庫」の全てを詳しく知ることができます!
目次
文庫本とは、「単行本」より小さな判型の本のこと
文庫本とは普及用に制作される小さな判型の叢書です。(叢書=シリーズもの)
主にA6判(105×148mm)で制作され、欧米におけるペーパーバックに相当します。
ただし欧米のペーパーバックは「カバー無し」が一般的ですが、日本の文庫は「カバー有り」なのが大きな違いです。
なお、文庫本と単行本の違いについては後述します。
文庫本はどのような形で発売される?
文庫本が発売される理由や流れは主に、以下の3パターンになります。
- 最初から文庫本として発売される場合
- 単行本から文庫本になる場合
- 作品が映画化・ドラマ化した場合
順に解説していきます。
最初から文庫本として発売される場合
文庫本はすべて「単行本として出版してから文庫化される」と思いこんでいる方も多いですが、最初から文庫本として出版される本もたくさんあります。
文庫は単行本と異なる販売上の特徴を持っていて、書店においても文庫コーナーと単行本のコーナーは分けられています(客層が違うため)。
テーマや客層を考え、文庫として出版した方が売れそうな本は最初から文庫本で発売されます。
単行本から文庫本になる場合
単行本が文庫化される場合、目安として「単行本の発売から3年で文庫化」されることが多いです。
ただ、原則としては「売れゆきが鈍ってきたタイミングで文庫化」されます。
ですので、売れ行きがよければずっと文庫化されないこともありますし、逆に3年を待たずに文庫になることもあります。
作品が映画化・ドラマ化した場合
原則として「売れ行きが鈍ってきたら文庫化」と書きましたが、逆に映画化・ドラマ化など「広く売り伸ばす」タイミングで文庫化することもあります。
映像化は多くの方に作品を知ってもらうチャンスであり、「ふだん本を読まない層」にも買ってもらいやすいからです。
文庫化すれば値段も安く設定できますし、映像化をPRした帯を巻いて一気に大部数を狙います。
文庫本と単行本の違い
サイズ | 価格(平均) | ジャンル | |
文庫本 | A6判(105mm×148mm) | 670円 |
一般文芸 か 実用雑学の二種類 |
単行本 | 四六判(127mm×188mm) | 1,401円 |
一般文芸、実用書、ビジネス書 など |
- 単行本に比べ安い
- 単行本より小さく軽いので持ち運びやすい
- 駅中の書店では文庫のような、廉価で読み切るのに時間がかからない本が好まれる
上記のような違いがあります。
文庫本には単行本にはない「あらすじ」が書かれている
文庫本だけのポイントとして裏表紙(表4)に「あらすじ」(ウラスジ)が書かれています。
・文藝春秋では15文字×10行
・新潮社は15文字×12行
・KADOKAWAでは14文字×14行
といった体裁も出版社やシリーズごとに決まっていて、文庫本に特有の文化です。
文庫本のメリット・デメリット
【メリット】
- サイズが小さいので「カバンの小さな女性」に買ってもらいやすい
- サイズが小さいので「出張中」のビジネスパーソンに買ってもらいやすい
- ちょうどよい文量・重さなので「新幹線のお供」用に買ってもらいやすい
- 価格が安いので、学生などあまり本にお金をかけられない人にも買ってもらいやすい
- サイズが小さいのでミニマリストにも買ってもらいやすい(部屋に残しやすい)
- 文庫と単行本は書店での売り場が違うので、単行本とは違う客層に訴求できる
- 単行本に比べて初刷が多く、初刷部数が伸びやすい
- サイズ・価格的に手ごろで、レジ前での仕掛け販売がされやすい
- レーベル(例:知的生き方文庫など)ごとに棚があり、即返品はされない(棚に残る)
- レーベルのブランド効果が見込める
【デメリット】
- 単行本に比べて、装丁を豪華にしづらい(廉価版のイメージ)
- 単行本より「お手軽さ」を求められるので、複雑な内容には向かない
- ランキングは「文庫小説」と「雑学文庫」一緒にカウントされることが多い(「雑学文庫」は不利)
- レーベルごとに平台のスペースがだいたい決まっているので、定期的に新刊が出て、棚に押し出される
- レーベルごとに棚のスぺースも決まっているので、古くて売れ行きの悪いものは返品される
- 仕掛け販売されない限り、ベストセラーになりづらい
- 単価が安い分、印税も低くなりがち
以上、文庫には単行本と比べて棚が違ったり、シリーズものだったりと「売り方・並べ方」が特殊な分、メリットデメリットも明確に違います。
部数が多く、価格も安く、さらにレーベルの棚があるので返品されにくいですが
棚がある分「その枠を超えると返品」されたり、1冊だけ目立たせるには「仕掛け販売」等が必要になるのです。
『思考の整理学』のようなスーパーベストセラーもありますし、仕掛け販売しやすいのは魅力的ですが、
文庫のすべてがレジ横で平積みされるわけではないので、痛しかゆしです。
あと、これは個人的な感想ですが、文庫の方が人に貸した時の消耗が激しいので、文庫は特に貸しません。(笑)
(そもそも本を人に貸さない主義なのですが、文庫は特に!です)
コミックスの文庫版もある
文庫というと小説や雑学系だけだと思われがちですが、コミックスの文庫もあります。
「集英社コミック文庫」や、「講談社漫画文庫」などたくさんあります。
コミックスでは複数冊分が文庫版に収められていて、例えば西浦の大好きな『蒼天航路』文庫版は、単行本2冊分が収録されています。
ただ文庫版では、単行本版に収録されているカラーページが無かったり、空きページのおまけマンガが無かったりもするので、コレクターは文庫より単行本や豪華版をおすすめします。
まとめ
文庫本はつまり、単行本の廉価版という位置づけでありながらも、
叢書(シリーズ)としてレーベルごとのメリットデメリットを持っていたり、
売り方、売れたときの印税なども結構違うことがわかりました。
個人的には「これは文庫ドンピシャ!」という企画以外は、まず単行本でベストセラーを狙い、
その後、文庫版で2度目のベストセラーを狙いたいと考えます。