ベストセラーの仕掛け人「営業エース」を探せ

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どうも、炒飯大好き出版プロデューサーの西浦です。

今でこそ出版プロデューサーをしていますが、それ以前は学研という出版社で書籍のマーケティングをしていました。つまり営業畑の人間なんです。だから「売れるかどうか」には敏感だし「どう売るか」から逆算してプロデュースをしていきます。

さてベストセラーと言うと編集者にライトが当たりがちですし、たしかにその役割は非常に大きいのですが、実はその裏で「営業」がものすごく活躍しているのです。今回は元営業だからわかる「営業エースの重要性」について書いてみます。


目次

営業エースについて動画で観る

ベストセラーの仕掛け人「営業エース」について、動画で観たい方、ながらで聴きたい方はぜひ下記もご利用ください。

書籍のマーケティングってどんな仕事?

出版社によって営業のやり方は全然違うのですが、僕がやっていた仕事を簡単に言うと「販売方法の決定」と「書店営業部との交渉」「増刷の判断」の3つです。これサザエさんの次回予告ならぜったい観たくない。いや、むしろ観たいか。

ちなみに書店営業部はすごくザックリいうと、直接書店さんと交渉しているチームで、いわゆるザ・営業って感じの部門です。学研をはじめ社員数の多い会社だと、営業部門が「営業・マーケ・PR」と複雑化していく傾向にありますが、書店営業部は、ほぼすべての出版社にある「基本」かつ「重要」な部門です。

編集者が制作チームのリーダーなら、マーケティング部は販売チームのリーダーだと思ってください。僕は書店営業部もマーケティング部も経験したのでわかるのですが、「ベストセラー」を目指すうえで「営業エース」を見つけることが非常に重要なのです。

営業部は数字で動く

本をつくるのは編集、育てるのは営業と言われます。発売後にどこの書店さんで平積みしてもらうか考えて交渉に行くのも営業だし、売れ行き等を分析して「増刷の判断」をするのも営業だからです。どんな名作も、書店で置いてもらえないと売れません。ではどうやって営業は売り方を決めているのでしょう?

それは数字と勘(経験知)です。営業は売上や利益を生み出す部署なので、基本的に数字で判断し動きます「売れている本」に広告とか受注とかパワーを集中させた方が効果的なので、「データで判断」して「重点商品」を選定します。そしてこの「重点商品」は新刊既刊含めて5点程度なのです。(出版点数と営業の人数の多い学研でも一般書、学習参考書、児童書などジャンルごとに各7~10くらい。)

つまりほんの一握りの本しか営業の力を借りられないのです。怖いですね~、出版しても出しっぱなし、売れなくなって返品されて記憶から消えていく本がほとんどです。営業としてもできることなら全部の本を売りたいし、大変心苦しいのですが「選択と集中」戦略の下に、心を鬼にして見捨てていきます営業は本の屍の上にベストセラーを築くファイターなのです。

仮に今、サンマーク出版の重点商品に入るなら

当然のことですが、自分が出版するなら屍の方じゃなくて、「重点商品」の方に入りたいですよね。重点商品に入れるかどうかは、売れ行きの良さで判断されるわけですが、これが結構ハードル高いのです。例えば2017年2月9日現在のサンマーク出版でベスト5入りを目指すとしましょう。

ちょっと調べてみると

  1. 『金スマ』『嵐にしやがれ』などでも紹介100万部突破の「どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法」
  2. 本屋大賞2017ノミネート!35万部突破の「コーヒーが冷めないうちに」
  3. 25万部「成功している人は、なぜ神社に行くのか?」
  4. TBS「ジョブチューン 」に著者出演し話題に!17.5万部「血流がすべて解決する」
  5. 10歳の哲学者!17万部「見てる、知ってる、考えてる」

ざっと見ただけでこれだけ売れてる本があります。さらにロングセラーの「生き方」(稲盛和夫:著)や、「人生がときめく片づけの魔法」シリーズなど既刊でもまだまだ売れてるものがたくさんあります。ここで、新聞広告を打つとなっても「2枠」しかなかったり、伝家の宝刀JR広告も3枠、4枠です。その枠に入れるのか?という話です。

これはかなり厳しい・・・ですがその時に頼りになるのが「営業エース」です。

数字に支配されない営業エース

営業は基本的に数字と経験で動くと書きましたが、できる営業にはクリエイティブな面があります。彼らは数字を利用するし信用しますが、数字そのものをつくる意識があります。

実は、データで判断するのは間違いがないように思いますが、一つ落とし穴があるのです。それはデータは「過去のこと」だということです。過去に「発売1週間でこれくらい売れた本は5万部まで売れた」ので今回も5万部売れるだろう。www(POSデータの一つ)で2週間の消化率16%だから厳しい・・・などなど。たしかにそれは統計上正しい予測ですが、未来の数字に対するアクションがないのです。

この本は20万部売れる!と思ったら「どうやって20万部売るか?」を逆算して動いていくべきだし、ある書店で消化率が悪いなら直接足を運んで「ここじゃなくて、あっちの売り場なら動くかも?」といった、未来をつくる「クリエイティブ」な提案をしていける人こそが「営業エース」です。数字に従うのではなく、数字を利用し、数字をつくっていく人です。

同じ本でもPOP1枚で売れ行きが大きく変わることがあります。積んでもらう場所、積み方、隣に置かれた本・・・あらゆる条件が店頭での売れ行きに影響します。そこを攻め続けられる人たちこそが営業エースです。

数字は結果であり、前提条件は刻一刻と変化している

データで判断するのには一つ落とし穴があります。なぜかというとデータはあくまで「過去の数字」だからですね。なぜ過去のデータは危険なのでしょう?

過去に10万部売れた本でも時代が変わっていて、もう5万部しか売れないかもしれない。そもそもその10万部の裏では当時の営業担当がいろいろ仕掛けた可能性があります。じゃあ、こちらもいろいろ仕掛けてはじめて同じ土俵に立てるわけで、そういう数字の背景まで読めないとダメなのです。同じことをやってもうまくいくとも限りませんしね(なんせ過去だから!)

また「女性向けの本はAの店で売れれば全国に広がる」というような経験知は貴重ですが、その店の客層は毎年少しずつ変わります。マンションが出来て若い夫婦が増えたと思ったら子供が出来て、児童書や教育書が売れるようになって・・・市場は常に変化しているし、書店サイドも品揃えを変えていきます。

10年前は今みたいに「ビジネス×健康」という書籍は全然売れなかったんです。マラソンが流行りだした頃にいろいろチェックしましたがみんなダメでした。けど今は睡眠とか休息とか「ビジ×健康」は市場側が「あり」に変化しましたよね。

営業エースは数字の背景まで見る

まずは全体の傾向をつかむために数字を大きく見ます。www(POSデータの一種。対象書店数が一番多く、全国の中小規模店がたくさん入ってる)で、まず「売れ数、返品数、在庫数、消化率」を見ます。

次いで点だけでなく線で見ます、つまり1週間、2週間、3週間での変化を追うのです。ここまではふつうの営業でも見ますが、その数字を見て「売れてるから良い」とか「売れてないからダメ」では背景まで見れているとは言えません。

「営業エース」は全体から傾向をつかみ、最終的には1店舗の1つの売り場まで分析の目を落とし込んでいきます。あくまでデータは利用するものだからです。

 

背景を見るのは「問いを立てる力」

背景を見るというのは「なぜ売れているのか」「なぜ売れてないか」の仮説を立ててデータを見て、現場で確認することです。

初速(発売後1週間の売れ行き)が悪くても2週目が伸びてれば「棚前で動き始めた」のかもしれないので、在庫数5前後の店に絞って売れ行きを再度分析します。真のベストセラーは棚前から動くことが多いので見込みありますよね。営業エースは「みんなが気づかない兆し」に気づきます。

逆に順調に来てたのに3週目で下がったとしても、時間の経過で市場在庫数が減っているわけで「在庫当たり消化数」とか「5冊以上在庫している店=平積みしている店」を分母に置き換えて状況を正しくつかみます。実質的に平積みが減ってるわけですから、その分は差っ引いてあげないといけないのです。営業エースはみんなが『売れなくなったね』と言い出す頃に『なぜ数字が落ちているか』説明できます(「数字が落ちた」と「売れなくなった」は別のことなのです)

何冊売れたかより、どのように売れたか

まだ学研の販売部にいたころ、後輩から『POSデータって何を見たらいいんですか?』と聞かれたので、そのときも『数字の背景を見ると良いよ』と伝えました。

例えば「売上5返品4在庫1」というデータは、その店で「10冊入荷して、5冊売れて、4冊返品されて、1冊残っている」ということです。これを見て「消化率50%、返品率40%、在庫率10%」というのは誰でも分かります。大切なのは数字の背景、「どのように売れて、どのように返品されたか」です。

担当の方がエンド台で置いてくれたけど売れなくて、マーケティングの棚に置いたけどいまいちで、「マーケって言ってたけど営業の方が合うかも?」と営業の棚に変えてくれたらちょっと売れて、POP書いたりもしてくれたけど、でも動き鈍いから『ごめん西浦さん!』って返品されたのか。

アルバイトの子が新刊搬入時に出すの忘れてて、1週間後にとりあえず5冊平積みされて、それがすぐ売れたのに追加で出すの忘れてて、ちょうど棚卸の時期なので返品なのか。数字は同じですけど、この二つの背景は全く違います。

前者ならしょうがない、むしろ感謝しかないですね。ここまでやってくれたのに売れなかったら、むしろ申し訳ない気持ちでいっぱいです。後者なら何かやりようがあったかもしれない。そしてそれは現場に足を運ばないと手に入らない情報なのです。

10万部は1冊1冊の積み重ね

10万部売れた本であれ、100万部売れた本であれ、それは10万部、100万部がひと塊でまとまって売れたわけではなく、1冊1冊が売れた積み重ねとして到達したわけです。その1冊1冊を売ってくれた書店さんがいて、現場で「どのように」仕掛けると売れるか(逆に売れないか)を知らないと、自分たちで10万部100万部を生み出せません

営業エースは「数字の背景まで見る」「背景を見るとは、仮説を立ててデータを見て、現場で確認すること」と書きました。

数字はあくまで数字です。「売れた、売れない」ではなく「なぜ売れたか」「なぜ売れないか」という背景を理解する必要があります。彼らは常に「なぜ?」と「どうやって?」を問い続けています。なぜならその本が「自分ごと」になっているからです。だからエースなのだと思います。

あなたが著者、あるいは編集者で「この人は営業エースなのかな?」と思ったら、人当たりの良さとか、自分の企画について肯定的かとかではなく「なぜ?」「どうやって?」の仮説を持っているかどうか聞いてみると良いでしょう。仮説はあくまで仮説なので「正解」は存在しないし、たまたま「この本の現在の正解」に到達することはあっても、すべての本の正解はないです。正解を出す力ではなく、仮説を立てて、それを実行できる力が営業エースの力なのだと思います。


営業の話を書きだしたらネタがどんどん出てきて、逆にとっ散らかってきたので、今回は「データと営業エース」の話だけにまとめました。また別の視点から営業エースの話を書いてみたいと思います。「組織と営業エース」「書店さんと営業エース」「編集と営業エース」「営業エースをこうやって味方につけろ」などなど。書きたいことがたくさんあります。ご期待頂けると嬉しいです。

【営業エースシリーズ】

累計150万部のシリーズは、一本の電話から始まった

参考リンク
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